妻が「末期がん」になったら

<5>治療中の妻を邪魔する夫の性欲…術後1年以上で9割再開

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 妻にがんが見つかれば日常は一変する。家族の暮らしは、それまで通りとはいかない。夫婦の性生活も変わる。ピンピンしている夫と違って、病と闘う妻はセックスどころじゃない。性欲が衰えない夫と、その気がなくなる妻。性をめぐる感情のズレは、夫婦間の溝をどんどん広げてしまう恐れがある。

 九州がんセンターの調査(2005年)によると、術後1年以上を経過している妻の9割近くがセックスを再開していた。うち半数が3カ月以内である。性生活をスムーズに取り戻す夫婦は意外に多いようだが、治療が続く場合は“合体”が難しい。

「がん患者のセックス」の著書もあるノンフィクション作家の長谷川まり子氏が言う。

「乳がんや子宮頚がんなど女性特有のがんの場合、女性ホルモンの活動を抑制し、がんの進行を遅らせる必要があります。女性は閉経状態になるので、ホルモンのバランスが崩れ、性交時に濡れにくくなったり、強い痛みを訴えるようになったりします。例えるなら、蚊に刺されたところをかきむしって血が出たときのようなヒリヒリした感じ。治療中のセックスは難しいのです。しかも乳がんの場合は、術後もしばらくは再発予防のために抗がん剤治療をすることが多い。セックスが苦痛という状態が長く続くわけです」

 手術によって女性らしいシルエットが変わってしまうことの精神的なダメージも大きい。コンプレックスや引け目を感じ、夫の前で裸になることに抵抗を覚える。それでセックスを拒むケースも少なくないという。

 オナニーなら快感を得られるけど、セックスはイヤ……そんな女性もいた。濡れにくいところをローションで補う方法もあるが、それすら妻に求める気持ちがなければ難しい。がんを患った妻にとって、夫の性欲は邪魔でしかないのだ。

「だからといって腫れ物に触るように接するのはダメ。手を握ったりハグやキスをしたりといったスキンシップは増やした方がいい。中には、夫に『浮気してきていいよ』と言う妻もいますが、決して本気ではありません。夫は『風俗ならいいだろう』と考えるかもしれませんが、『つらい時に自分を見てくれていなかった』と責められます」(長谷川氏)

 家族問題評論家の池内ひろ美氏によると、闘病中の妻との関係に悩み、部下の女性に相談しているうちに、その女性とデキてしまうケースも多々あるという。妻とセックスできないときに別の女性と話し込むのは非常に危ない。「夫に裏切られた」という無念を抱えて妻が死んでいくことを望むような夫はいないはずだ。

「闘病中の妻が求めているのは共感です。夫には、自分が感じていることを理解し、受け止めてほしいのです。抗がん剤治療で髪の毛が抜けた妻に『それでもキミはすてきだよ』などと言うのは逆効果。本人がすてきと思っていないのだから、『本当にこの人は分かっていない』となってしまう。妻が『つらい』と漏らせば『つらいんだね』、『痛い』と訴えたら『痛いんだね』と、繰り返して応えてあげるだけでも、妻の不安は和らぐのです」(池内氏)

 問われるのは、セックスに頼らないコミュニケーション力だ。