Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

小林麻央はステージ4で手術 狙いは皮膚転移の症状緩和か

左はオフィシャルサイト「KOKORO.」から
左はオフィシャルサイト「KOKORO.」から/(C)日刊ゲンダイ

 ブログで気丈に振る舞う姿が話題を呼んでいます。乳がんで治療中の小林麻央さん(34)は病状が進行しているようで、「ステージ4」であることを告白。「根治が難しい状態」ながら、「5年後も10年後も生きたい」と切なる願いを語っています。奇跡を信じて、手術を受けたようです。

 ネット上では、「ステージ4で手術を受けられるのか」といった疑問の声が上がっていますが、決してゼロではありません。手術は通常、がんをすべて取り除くために行います。がんの根治が目的の根治手術です。その対義語に「姑息手術」があります。がんの切除ではなく、目先の症状を緩和するために腫瘍の一部を取り除く手術です。

 乳がんが進行すると、乳房の外に“顔”を出したり、皮膚表面に炎症のような状態が広がったりすることがあります。この皮膚転移は患者さんにとって、とてもつらい。患部は腫れて熱を持ち痛む上、肌着とこすれると滲出液や膿が出たり、出血したり。そこに細菌などが感染すると、悪臭のもとになるのです。

 乳がんが“顔”を出した状態を、医師は「花が咲く」と表現しますが、そんな生易しいものではありません。女性の象徴である乳房が目を背けたくなる状態になりかねないのです。仮にそうだとすれば、34歳と女盛りの麻央さんの心情は推して知るべしでしょう。ブログに「一時は胸や脇の状況が深刻」とサラッと記す以上につらかったはずです。

 一連のブログなどによると、麻央さんは診断当初からすでに乳がんが進行していた可能性も決してゼロではありません。その当時、手術をせず抗がん剤治療を選択したのは、すでに皮膚転移を起こすほどがんが広がり、手術ができなかったのではないでしょうか。診断時に進行乳がんで皮膚転移を起こしている割合は5%とされます。

 乳がんが“震源地”の原発巣から皮膚や肺、骨などに転移すると、全身に対して抗がん剤治療を行い、皮膚の傷口には軟膏などを塗って治療。そうやって様子を見るのが一般的ですが、傷口は肌着にくっつき、脱ぐのも痛むし、臭いもきついため、QOL(生活の質)はとても下がります。

 今回、手術を受けたのは、原発巣がある程度縮小したのではないでしょうか。それで、手術をして、目の前の症状を緩和することを狙ったのでしょう。ブログにも、「QOLのための手術」とあり、脇のリンパ節も併せて切除したとみられます。

 手術をしても、がんは肺や骨に転移しているため、腫瘍がすべて取り除かれたことにはなりません。麻央さんの手術が医学的に「姑息手術」と呼ばれるのは、このような事情からですが、処置としては妥当です。

■転院は繰り返さない

 奇跡を信じて前向きに治療に取り組むのはとても大切ですが、気になることもあります。「何度か転院しました」という点です。

 診断時に、よりよい治療法を探るためセカンドオピニオンを求めるのはいいのですが、いざ治療法を決めたら、できれば特定の医療施設で一貫して治療を受けた方がいいでしょう。「船頭多くして」という状況では、思い通りの結果を得られないことが少なくないのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。