がん検診の害として、「がんでないものをがんと診断してしまう危険」や「治療の副作用」というものは分かりやすいと思います。しかし、がんの診断が正しく、がんに対する治療の害がないとしても、早期発見のためにかえって害を及ぼしてしまうことがあります。
たとえば50歳でがん検診により早期がんを発見し、誤診もなく、治療の副作用もなく、治癒することができた人を例に考えてみましょう。
この人ががん検診を受けなかったらどうなったでしょうか。70歳になるころには死んでしまったのでしょうか。
もし、この見つかった早期がんが、進行してその人を死なせるまでに30年かかる進行の遅いがんだとしたらどうでしょう。70歳までがん再発の不安におびえることなく、より幸せな人生を送ることができたのではないでしょうか。しかし、80歳までは生きられず、それならがん検診を受けたほうがよかったと思うかもしれません。
もうひとつ別の例を見てみましょう。同じ50歳でがん検診を受けて早期発見し、早期治療で治癒したにもかかわらず、60歳の時に心筋梗塞で死んでしまったという患者さんです。
この患者さんのがんも同様に10年では症状を出すこともなく、進行するまでに30年かかるとしましょう。そうだとすると、この人はがん検診を受けなければ50歳から60歳まではがんの再発におびえることもなく、より幸せな10年間を送ることができたのではないでしょうか。
こうしたがん検診での発見例を「過剰診断」と呼びます。この過剰診断の問題は、いくら診断が正しく、それ以降の治療が有効でも避けることはできないのです。
数字が語る医療の真実