数字が語る医療の真実

診断と治療は正しいのに がん早期発見が害になる“過剰診断”

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がん検診の害として、「がんでないものをがんと診断してしまう危険」や「治療の副作用」というものは分かりやすいと思います。しかし、がんの診断が正しく、がんに対する治療の害がないとしても、早期発見のためにかえって害を及ぼしてしまうことがあります。

 たとえば50歳でがん検診により早期がんを発見し、誤診もなく、治療の副作用もなく、治癒することができた人を例に考えてみましょう。

 この人ががん検診を受けなかったらどうなったでしょうか。70歳になるころには死んでしまったのでしょうか。

 もし、この見つかった早期がんが、進行してその人を死なせるまでに30年かかる進行の遅いがんだとしたらどうでしょう。70歳までがん再発の不安におびえることなく、より幸せな人生を送ることができたのではないでしょうか。しかし、80歳までは生きられず、それならがん検診を受けたほうがよかったと思うかもしれません。

 もうひとつ別の例を見てみましょう。同じ50歳でがん検診を受けて早期発見し、早期治療で治癒したにもかかわらず、60歳の時に心筋梗塞で死んでしまったという患者さんです。

 この患者さんのがんも同様に10年では症状を出すこともなく、進行するまでに30年かかるとしましょう。そうだとすると、この人はがん検診を受けなければ50歳から60歳まではがんの再発におびえることもなく、より幸せな10年間を送ることができたのではないでしょうか。

 こうしたがん検診での発見例を「過剰診断」と呼びます。この過剰診断の問題は、いくら診断が正しく、それ以降の治療が有効でも避けることはできないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。