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【断らない救急医療】埼玉石心会病院・救急科(埼玉県狭山市)

埼玉石心会病院・救急科の西紘一郎副部長
埼玉石心会病院・救急科の西紘一郎副部長(提供写真)
内科系と外科系の医師2~3人が365日、24時間体制

 救急車の受け入れ状況が全国最低水準の埼玉県において、「断らない救急医療」が評価され、今年、県の「救急医療功労医療機関」として表彰された。1日の救急車の受け入れ台数は平均20台。埼玉県西部地区の2次救急(中等症以上の一般病棟入院患者の治療)を担っている。救急科の専任医師の西紘一郎副部長(顔写真)が言う。

「当院は入院治療と救急医療に特化させた急性期病院で、外来診療の患者さんは隣接するクリニックを受診する体制をとっています。救急科には内科系と外科系の医師が常時2~3人いて、365日、24時間体制で診療にあたっています。救急車の受け入れ率は98%以上です」

 高齢者の住民が多いエリアなので、救急搬送されてくる患者は、「肺炎」や「持病の悪化で動けなくなる」「転倒による骨折」などの高齢者疾患の比率が高い。一般的に医療機関は、精神疾患(自殺未遂やアルコール依存症など)や住居が荒れている(ゴミ屋敷など)ような患者の救急搬送を嫌がる傾向がある。しかし、ここではそのような理由で断ることはないという。対応できないケースは、多発外傷のような重症の3次救急の患者くらいだ。では、なぜほとんどの患者の受け入れが可能なのか。専任医師を置き、常に複数の医師がいることも理由のひとつだが、ベッド数の多さも他院と大きく違う。

「救急科で初期治療(初療)をする初療室が3床あり、それ以上の患者さんを受け入れられるホールディングルームが13床あります。普通は初療室だけなので、これほどのスペースを使った2次救急病院は近隣にはありません」

■12人の救急救命士が救急車の要請に対応

 いわゆる「タライ回し」といわれる病院が救急搬送を拒否する理由には「専門の医師がいない」「他の患者で手がいっぱい」「ベッドの空きがない」などが多い。その問題点を解消した体制をとっていることが、「断らない救急医療」を実践できている理由だ。迅速な対応ができるのは、救急救命士の働きが大きい。

 普通、救急救命士の多くは消防署に所属して患者を搬送する側。病院に所属するケースがあっても、せいぜい1~2人だ。それが同科では12人もの救急救命士が在籍する。

「救急車からのホットラインの受け入れ対応は、救急救命士同士でやりとりした方が正確で話が早いのです。急性期病院なので、他院への転院調整や患者さんの転院搬送なども救急救命士が担当しています」

 同院は来年秋に狭山市駅近くに移転新築して、ベッド数を450床(現349床)に増床する。災害に対応するためのヘリポートも備えて、さらに地域の救急医療に力を入れていくという。

「基本的に医療は地域で支えていくものだと考えています。大学病院や他院、診療所、公共機関も含めた地域医療の中で、2次救急病院としての役割をしっかり果たしていきたいと思っています」

■データ
 神奈川と埼玉に展開する石心会グループの施設(旧狭山病院)。
◆スタッフ数=専任医師1人、救急救命士12人、臨床工学技士1人
◆年間患者数(2015年)=2万5222人
◆救急車受け入れ台数(同年)=7050台