スマホが医療を変える

健康データが米国に流出?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 スマートウォッチ/バンドの機能を使えば、毎日の「消費カロリー」や「活動パターン」などを簡単に記録することができます。健康情報に特化したウエアラブル計測器の開発も進んでいます。「体温」「心拍数」「呼吸数」「血圧」「血中の酸素飽和度」などを短時間で測定できる装置が、実用化の段階に来ています。まだ測定誤差はありますが、センサーの性能は日進月歩で向上し続けています。

 ただし、それよりも「個人の健康データを誰が管理するか」が大きな問題になります。たとえばアップルウォッチなどで計測されたデータは、アップルのサーバーに記録できるようになっています。グーグルやマイクロソフトなども、同様の仕組みを用意しつつあります。また、これから出てくるウエアラブル機器の多くがアメリカ製です。つまり放っておけば、われわれ日本人の健康情報の大半が、自動的にアメリカに流れてしまうことになります。

 とはいえ、日本の中央官庁には、ITの専門家が不足しています。日本政府が国家レベルのIT事業に取り組んでも、税金の無駄遣いになってしまうことは、住基ネットやマイナンバーで露呈しています。民間企業にも、アメリカのITの巨人たちと張り合うだけの力はなさそうです。

■病気予防や管理は難しい

 一方、日常の健康データは、通院や入院といった医療データ、毎年の健診データ、予防接種記録などと組み合わせることによって、個人的にも国レベルでも、さらに医療産業全体にとっても、価値が大きく上がります。ところが日本では、それらのデータの大半が、病院・健保組合・自治体ごとにバラバラに管理されており、政府ですら手を付けかねている状態です。

 アメリカは、社会保障番号によってすべての医療記録が追えるようになっています。しかも、データフォーマットも標準化されています。本人が望めば、アップルやグーグルのサーバーに自分の医療記録をコピーすることも可能です。他の先進国や韓国、台湾などでも、国民総背番号制やデータの標準化が完了しており、日本だけが後れを取っている状況です。

 日本では当面、ウエアラブル機器を使った健康データを、専用アプリを使って自分の健康管理に利用できるのみです。医療データなどと組み合わせた病気の予防や管理は、当分難しいでしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。