ピアス穴が10cmの塊に “ただの傷”を甘く見てはいけない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 誰にでも発症の可能性があるのが、肥厚性瘢痕やケロイドだ。ところが、適切な治療を受けられていない患者が多い。

 傷は、炎症反応によって治る。その炎症反応が過剰になり、「治りすぎる」状態が肥厚性瘢痕やケロイドだ。この治療の第一人者である日本医科大学形成外科教室・小川令主任教授によると、「傷ができて3カ月目が要注意」だ。

 傷痕、肥厚性瘢痕、ケロイドは、一本の線上にある。最初はただの傷痕が、時間の経過とともに赤く盛り上がって肥厚性瘢痕となり、さらにほかの正常組織に広がってケロイドとなる。

「肥厚性瘢痕やケロイドに至るのが、傷ができて3カ月ほど経ったころです。この段階で、すぐに治療を行うことが大切です」

 肥厚性瘢痕やケロイドは、誰にでも起こり得る。最初の「傷痕」が身近なものだからだ。よくあるのが、ニキビ痕、水疱瘡の痕、ピアスの穴、深い・大きい・治るのに時間がかかる傷、ヤケド、クラゲに刺された痕、手術痕(内視鏡も含む)、帝王切開の痕など。ここに悪化因子が加わり、発症・悪化する。体質、胸・腹や関節などよく動かす部位にできた傷、高血圧、妊娠などだ。

「高血圧の人がケロイドに至りやすいのは明らかです。血管が障害を受けて炎症が悪化・増強し、それがケロイドに関係していると考えられます」

 女性ホルモンはケロイドの悪化を進行させるので、妊娠が悪化因子に加わる。これらの悪化因子に該当することで、1つのピアス穴から重症ケロイドに至り、直径10センチ以上の塊をぶら下げたような状態にまでなる人もいる。

■高血圧、妊娠で悪化

 しかし、最も重要なポイントは「適切な治療で、驚くほどきれいに治る」ということ。肥厚性瘢痕やケロイドの治療は、「ステロイドを含有したテープを貼る」「包帯などでの圧迫、かゆみを鎮める飲み薬などで補助する」ものになる。

 これらで改善されなかったり、治療期間を縮めたければ、「手術」あるいは「手術+手術による新たなケロイド予防のための放射線」が選択肢になる。すべて保険適用だが、自費診療であれば、レーザー治療の追加という手もある。

 ただ、これらの治療が正しく行われていないのが現状だ。よくあるのが、次の4つだという。

(1)体質だからと、治療をせず放置される。
(2)テープの使い方を間違えている。
(3)手術はできても放射線の設備がないので、治療が中途半端。
(4)そもそも「治る」ということを医師が知らない。

「テープは2種類あり、一方は弱いステロイドで、一方は強い。前者では効き目が弱く、成人では、最初は強いステロイドのテープを用いたほうが良いケースがほとんどです。しかし、弱いテープから始めて、効果がないまま続けてしまうことがあります」

 ケロイドまで至ると、見た目の問題ばかりか、痛みやかゆみがひどくなる。
「眠れないほど」と訴える患者もいる。治るチャンスがあるのだから、大いに活用したい。

 ただし、患者側もそれなりの覚悟が必要だ。

「治療には時間がかかります。傷痕ができて3カ月後、肥厚性瘢痕ができてすぐに治療を開始した理想的な患者さんでも、3~6カ月はテープを毎日貼り続け、患部をあまり動かさないようにしなくてはなりません」

 何年も放置していれば、治療にはその数倍の年数がかかる。それでも「何もなかったかのよう」と感動するほどきれいになる。痛み、かゆみも消える。

 誰でも経験する(した)かもしれない疾患だからこそ、「もしも」の時のために知っておこう。

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