天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

元祖“神の手”はやっぱり驚異的だった

順天堂大学の天野篤教授
順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 最近、元祖「神の手」と称される脳神経外科医の福島孝徳先生と、じっくりお話しする機会がありました。今年61歳になった私よりも10歳以上も年上(74歳)で、私がまだ外科医として成長段階だった時代から、脳神経外科の領域ではダントツで著名だった先生です。今もバリバリの現役外科医として、米国を拠点にしながら、米国7カ月、日本4カ月、その他の国1カ月くらいのスパンで、世界をまたにかけて活躍されています。

 今月初め、北海道にある病院の合併・移転の記念講演会に、福島先生と私が招待され、初めて直接お目にかかることになったのです。講演会が終わってからじっくりお話しさせていただき、福島先生はやっぱり「神の手」だったと大いに感銘を受けました。

 手術の内容をゴルフに例えると、私が行っている手術は1年間通して「1ラウンド15アンダー」の手応えです。全18ホールのうち15ホールでバーディーを取り、3ホールがパーというところです。パーに例えた手術が一般的に行われている平均的な手術だとすると、バーディーといえる手術は平均的な手術よりも、より速いか、より完成度が高い手術のことで、誰が見てもお見事と思える内容のものです。

 また、年によってはダブルボギーがあって「12アンダー」になってしまう場合もあります。手術そのものはうまくいっても、その後の合併症で回復に時間がかかってしまったり、入院が長引いてしまったり、不幸にも亡くなられてしまうケースもあるからです。

■一年365日手術を行って速さと完成度を追求

 福島先生に同じように例えていただいたところ、18ホールで「30アンダー」の手術を行っているとのことでした。30アンダーというと、15ホールでイーグルを取っていることになります。ショートホールが4つあるので、少なくとも3回はホールインワンしなければなりません。つまり、福島先生は狙ってホールインワンを取りにいけるくらい微細で完成度が高い手術を行っている。少なくとも、自分自身でそれくらいの手応えが感じられる手術をしているということです。これは、まさに神業といっていいでしょう。

 そうした、より速く、より完成度の高い手術を行うために、福島先生は一年365日、常に手術をしているといいます。速く終わらせることができなければ、それほどたくさん手術はできません。また、完成度が高くなければ、多くの施設で手術を行うこともできません。一人でも多くの患者さんを救うために、さらに速く、さらに完成度の高い手術ができるように研鑚を積み、腕を磨き続けているのです。

 私も年間400例以上の手術を行っていますが、さすがに365日フル回転ではありません。そもそも、そこまで多くの患者さんがいないという状況もありますし、精神的なストレスを解消して手術に臨めるよう、1週間に1日は休みを取るようにしています。そうしたことを考えても、福島先生は手術の回数だけでも驚異的です。

 また、脳神経外科医としての寿命を延ばすために、手術で使用する道具にもこだわっているといいます。ある時、福島先生は「自分は緊張しても手が震えない体質」だと気が付いたそうです。脳神経外科の手術というのは、顕微鏡を使いながら微細な範囲で作業するため、「震えない」というのは大きな強みです。そうした自分の強みを年を取ってからも継続していけるようにするため、顕微鏡、メス、照明など、自分に合った使いやすい道具を開発して、セッティングしているというのです。

 福島先生は、「ゴルフでは全部で14本のクラブを使うでしょう? 手術も同じで、14本は自分で気に入った道具を選ばないとダメなんですよ」とおっしゃっていました。次回、詳しくお話ししましょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。