天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

元祖“神の手”はやっぱり驚異的だった

順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 そうした、より速く、より完成度の高い手術を行うために、福島先生は一年365日、常に手術をしているといいます。速く終わらせることができなければ、それほどたくさん手術はできません。また、完成度が高くなければ、多くの施設で手術を行うこともできません。一人でも多くの患者さんを救うために、さらに速く、さらに完成度の高い手術ができるように研鑚を積み、腕を磨き続けているのです。

 私も年間400例以上の手術を行っていますが、さすがに365日フル回転ではありません。そもそも、そこまで多くの患者さんがいないという状況もありますし、精神的なストレスを解消して手術に臨めるよう、1週間に1日は休みを取るようにしています。そうしたことを考えても、福島先生は手術の回数だけでも驚異的です。

 また、脳神経外科医としての寿命を延ばすために、手術で使用する道具にもこだわっているといいます。ある時、福島先生は「自分は緊張しても手が震えない体質」だと気が付いたそうです。脳神経外科の手術というのは、顕微鏡を使いながら微細な範囲で作業するため、「震えない」というのは大きな強みです。そうした自分の強みを年を取ってからも継続していけるようにするため、顕微鏡、メス、照明など、自分に合った使いやすい道具を開発して、セッティングしているというのです。

 福島先生は、「ゴルフでは全部で14本のクラブを使うでしょう? 手術も同じで、14本は自分で気に入った道具を選ばないとダメなんですよ」とおっしゃっていました。次回、詳しくお話ししましょう。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。