Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

小倉智昭さんが膀胱がん告白 人工膀胱が嫌なら手術拒否も

小倉智昭さん
小倉智昭さん(C)日刊ゲンダイ

 がんの治療は、手術と放射線、抗がん剤が3本柱。病院のHPなどには病状ごとに治療法が紹介されていますが、全ての方に当てはまるわけではありません。紹介されているものとは別の治療法を選択することも可能です。その点で、キャスターの小倉智昭さん(69)の発言は注目でしょう。

 膀胱がんであることを告白した小倉さんは、5月にレギュラーの情報番組を1週間休み、内視鏡手術を受けたとされていました。ところが、今月16日のBS朝日の番組で膀胱の全摘手術を拒否していたことを明らかにしたのです。「男として男性機能がなくなるのは嫌」と語り、膀胱切除に伴う人工膀胱になることに強い抵抗を覚えたことが見て取れます。

 人工膀胱になると、お腹にコンビニ袋のようなパウチをつけて尿をためて2時間おきに交換するという、つらい生活を余儀なくされます。人目に触れる仕事柄、これを受け入れるのはつらい。手術を拒否するのはもっともでしょう。2年前に亡くなった菅原文太さん(享年81)も、人工膀胱が嫌で手術を拒否し、放射線と抗がん剤の治療で膀胱を温存しました。

■菅原文太さんは元気に7年

 膀胱がんは男性に多く、男女比は3対1。がんが膀胱の粘膜にとどまるステージ1だと、尿道から内視鏡で切除することもでき、5年生存率は91.8%ですが、取り残しが少なからずあって再発しやすい。膀胱と同じ尿路上皮で覆われている腎盂や尿管にもできているケースもあり、文太さんも尿管にがんがありました。

 そんな特徴があることから、がんが膀胱の粘膜を越えてその下の筋層に浸潤しているステージ2だと、日本では一般に膀胱全摘手術が行われるのです。下腹部にメスを入れて尿管を切断してから膀胱をすべて摘出。前立腺と精嚢も取り除きます。

 そうすると尿の出口がなくなるので、左右の尿管を小腸か大腸の一部につないだ上で、迂回路としてお腹に出口を設けるのです。断続的に尿が流れますから、パウチは欠かせません。小倉さんや文太さんが嫌がるのも無理はないでしょう。

 そこで、小倉さんは通院しながら遺伝子治療を受けているとのこと。今のところ転移はなく、順調な治療経過に喜んでいましたが、遺伝子治療は医学的に有効性が証明されているわけではありません。あくまでも“たまたま”。保険が利かず高価なこともあり、一般にはお勧めできません。

 では、どうするかというと、放射線と化学療法の併用です。文太さんもこれで膀胱がんを克服。2007年に「半年から1年」と宣告された余命を大幅に延長し、14年に亡くなる直前まで7年も元気に前向きに生活されていました。

 日本は治療が手術に偏る傾向がありますが、欧米は小倉さんや文太さんのステージ2なら放射線が選択されます。文太さんの充実した晩年は、その選択の結果です。小倉さんも「まだやりたいこと、いっぱいある」と語っています。膀胱がんで前向きに生きたければ、外科医が勧める手術以外の方法も考えるべきだと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。