メイ英首相は56歳で発症 1型糖尿病は“大人の病気”だった

 肥満に関係なく、血糖を抑えるインスリン分泌がゼロになる1型糖尿病。これまでは“子供の病気”と思われてきたが、実は大人での発症が半数に上っていることが分かった。9月に開かれた第52回欧州糖尿病学会で英国の研究チームが発表した。「やせてる俺に糖尿病は関係ない」とうそぶくあなたも、安心してはいられない。

■半数以上は30歳以降に見つかる

 1型糖尿病はある時期から膵臓のインスリン産生細胞が崩れていく病気だ。自己免疫細胞やウイルスが、インスリンを産出するランゲルハンス島β細胞を攻撃することで発症するといわれている。

 英国の研究チームは、50万人のデータを集積している「英国バイオバンク」に登録した40~70歳の英国人データ(12万人)から、1型糖尿病と関連する遺伝子多型をリストアップしてリスクスコアを作り、糖尿病患者の遺伝子データベースを作成した。

 それを分析したところ、1型糖尿病の半数が30歳以降に発症していたことが判明した。糖尿病専門医で「AGE牧田クリニック」(東京・銀座)の牧田善二院長が言う。

「日本では糖尿病患者さんの5%が1型糖尿病ですが、北欧では30%近くいます。原因はハッキリしていませんが、1型糖尿病になりやすい複数の遺伝子の組み合わせがあると推測されていました。それを解明したうえでの発表でしょうが、それこそが大きな驚きです」

 1型糖尿病には2つのタイプが知られている。「緩徐進行1型」と「劇症1型」だ。

「前者は2型糖尿病と同じく、ゆっくりと進行して最終的に1型になるタイプです。日本では2型糖尿病と思われている症例の8%に認められます。しかし、欧米では10%になることが分かっています。後者は風邪症状から1週間以内に発症します。インスリンが絶対的に不足して糖尿病性ケトアシドーシスの状態になり、失神して救急車で運び込まれることが多いようです」

■1型と2型で異なる治療方法

 ある40代の女性は10年前に2型糖尿病と診断された。この時点の食後血糖値は377mg/dl、HbA1cは9.8%。飲み薬では血糖値が下がらず、すぐに1日2回のインスリン注射療法に切り替えた。今年9月に体から分泌されるインスリンがゼロになり、改めて緩徐進行1型糖尿病と診断された。

「この患者さんは最初、自宅近くの一般内科のクリニックにかかっていました。残念ながら一般内科の先生の多くは、緩徐進行1型糖尿病の存在を知りません。そのため、2型糖尿病と同じように飲み薬による治療や食事制限、運動療法などを勧めますが、もちろん効果はありません。正しくはすぐにインスリン注射を打たなければなりません。1型と2型では同じ糖尿病でも治療の仕方が違うのです」

 今年7月に英国史上2人目の女性首相に就任したテリーザ・メイ女史は、56歳となった2012年11月に重い風邪をキッカケに1型糖尿病を発症した。当時、内務大臣を務めていたメイ首相は、ロンドン五輪の仕事に追いまくられていた。すでに体重減少といった糖尿病特有の症状は表れており、医師から「2型糖尿病」と告げられた。

 しかし、血糖降下薬は効果がなく、すぐに「1型糖尿病」と病名が変更され、1日4回のインスリン注射に切り替えられた。

「メイ女史は世界で初めて首相に就任した1型糖尿病患者です。就任当初は“激務に耐えられないだろうから首相には不向き”との批判がありました。しかし、彼女は上手に血糖コントロールすれば健康な人と変わらず、重要な責務をこなせることを証明しています」

 日本では統計資料さえないほど“冷遇”されている大人の1型糖尿病だが、恐れることはない。2型糖尿病と診断されながら、血糖値が下がらない人は糖尿病専門医にかかることだ。

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