ストレス解消や胃酸中和も 「歯ぎしり」に多くのメリット

歯を壊し不調をもたらす“悪役”
歯を壊し不調をもたらす“悪役”といわれるが…

 寝ている間に知らず知らずのうちに起こしている歯ぎしり。別名「ブラキシズム」(口腔内悪習慣)と呼ばれ、歯を壊し、体全体に不調を来す“悪役”のイメージが強い。ところがこの歯ぎしりには多くのメリットがあるという。どういうことか。市川歯科医院(東京・虎ノ門)の市川信一院長に聞いた。

「一般の人は歯ぎしりによる虫歯や、歯周病、歯列の乱れなどの悪い面ばかりに目を奪われますが、なぜ人は歯ぎしりをするのか、どんなメリットがあるかにも目を向けるべきです」

 歯ぎしりの発生率は小児10~20%、成人5~8%、高齢者2~3%といわれる。しかし、これは「患者の歯ぎしり音による自己申告」によるもの。TCH(上下歯列接触癖)など、本人が気づかない歯ぎしりを含めれば、かなり多くの人が行っている。歯ぎしりには、それだけのメリットがある。

「例えば、ストレスの解消です。どんな人も日常生活を行ううえでストレスを感じます。それを睡眠時に歯ぎしりという形で解消していると考えられます」

■脳の発達にも貢献

 睡眠は、浅い睡眠の「レム睡眠」と深い眠りの「ノンレム睡眠」に分かれ、90分周期で4~5回繰り返される。

 歯ぎしりは、ノンレム睡眠の中でも、浅い眠りの段階で表れることが多い。この段階の睡眠は脳を休ませながら、起きている間の不愉快なことや怖かったことなどを緩和・消去しているといわれる。歯ぎしりは、そのときに起こる生体反応ともいえる。

 歯ぎしりは、脳の発達にも貢献している。

「歯を噛み合わせることは一種の脳トレです。歯と歯を支えている歯槽骨の間には歯根膜と呼ばれる、靱帯があります。この歯根膜はわずか0・2ミリ程度の薄さしかありませんが三叉神経という脳神経の中でも最大の神経で脳につながっています。また、噛めば噛むほど、咀嚼筋や側頭筋などが動かされ、脳への血流がよくなります。夜、寝ている間に脳への刺激や血流を増やすことで、ストレス解消とともに脳の発達・成長を促しているという人もいます」

 体を横たえたときなどに胃液が食道に逆流して、胸焼けやむかつきなどを起こす「逆流性食道炎」。歯ぎしりにはそれを防ぐ働きもあるという。

「寝ている間に胃酸が逆流すると歯が溶け、歯茎にダメージを受けます。それを阻止するため、歯ぎしりで反射的に唾液を出して胃酸を中和している、という報告があります。胃酸が喉まで逆流していなくても、食道に酸の刺激があれば歯ぎしりが起きます。逆流性食道炎の治療薬であるプロトンポンプ阻害薬を投与すると歯ぎしりが減ったとの研究もあります」

 飲酒は逆流性食道炎を起こしやすいといわれる。胃に入った食べ物が食道に戻らないようにフタをする下部食道括約筋の働きを緩くするからだ。同じく飲酒が歯ぎしりを増やすのはその証拠だ。

 とはいえ、歯ぎしりをする時の歯への負担はすさまじい。20~30歳の一般的な男性の場合、1本の歯の噛む力は奥歯で約60キロ。ところが、歯ぎしりだと倍以上の負担がかかるといわれている。中には、ライオン並みの300キロ近い人もいるという。これでは歯が壊れるのも当然だ。

「起きているとき以上に歯に負担がかかるのは悪い歯ぎしりで、そうでないのは良い歯ぎしりといえます。その見分け方は、口の中を見れば分かります。骨隆起といって、上顎や下顎に骨の盛り上がりがある場合、歯茎との間の歯にくさび状のひび割れがある場合は、歯に強い負担があるということです。また、朝起きた時に、顎が疲れている人も要注意です」

 心当たりのある人は歯科医と相談して、マウスピースを作るなど、対策を練ることだ。

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