独白 愉快な“病人”たち

映画監督・俳優の佐野和宏さん 下咽頭がんから復帰まで3年

佐野和宏さん(C)日刊ゲンダイ

■声がでなくてもどうにかなる

 がんで衝撃だったのは、抗がん剤の副作用で何カ月も口内炎ができ続けたことと、味覚障害。何を食べても味がしないから、食欲が湧いてこない。でも食べないと病気に負けてしまうので、視覚と触覚と記憶を駆使して食べていました。

 食べる楽しみがなくなることがこんなにショックだとは思ってもみなかった。5年経ち、今は「すする」ことができないことが不便ですね。鼻水が出るとティッシュが手放せないし、麺類を食べる快感が半減している。

 3年前、仲間が僕に仕事をオファーしてくれて、こんな状態でも役者として使いたいと言ってもらえて大変ありがたかった。今度公開された映画「秋の理由」では、寺島しのぶさんと夫婦役で、心因性で声を失った男の役を監督が僕のために作ってくれました。現場復帰し、みんなで作り上げること、どんな人だかわからない共演者と作品を軸に関係を構築するワクワク感……やっぱり現場は楽しい。

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