Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

治療しない選択肢も 平尾誠二氏の命奪った胆管がんの知識

53歳で亡くなった平尾誠二さん
53歳で亡くなった平尾誠二さん(C)日刊ゲンダイ

 ラグビー界の宝・平尾誠二さんの命を奪ったのは、胆管細胞がんでした。まだ53歳と若く、2019年のラグビーW杯日本大会の成功に向けて突っ走っている最中の訃報にファンならずとも、ショックを受けたことでしょう。

 一般にはなじみの薄いこのがんは、医学的に肝臓がんに分類されます。昨年、女優・川島なお美さんと柔道家・斉藤仁さんも、同じがんで帰らぬ人となりました。2人とも54歳。平尾さんのケースとダブります。

 胆管は、肝臓からすい臓を経由して十二指腸に胆汁などの消化液を運ぶ6~8ミリほどの管で、肝臓の内部と外部に分けられ、胆管細胞がんという場合は主に肝臓内の胆管にできた腫瘍を指し、肝臓の外にできた腫瘍の肝外胆管がんと分けられます。胆管細胞がんというと、肝臓がんのひとつと考えるのです。

 胆管と肝臓や十二指腸などとの位置関係や管の細さから、お腹のエコー検査では見つけにくい。それで発見が遅れると、胆汁が排出されにくくなって逆流するため、皮膚や白目の部分が黄色っぽくなる黄疸が表れます。体重の急激な減少や背中の痛み、腹部の腫れ、みぞおちの痛みを伴うことも珍しくありません。

 ネットなどでは、昨年のW杯の解説中に映った激ヤセした平尾さんの姿が話題になりました。通常なら試合会場の解説席に座るはずですが、東京のスタジオでタレントと並んでいたことから、当時から健康不安説が取りざたされています。今から考えると、胆管がんが進行していたことがうかがえます。

 肝臓がんのうち9割を占める肝臓そのものにできるタイプは、肝炎ウイルスが原因で、ウイルス除去の治療を受ければがんへの進展を食い止めることが可能です。ところが、胆管がんは生活習慣との関連も不明で治療が難しい。

 ほかの臓器や重要な血管などとの位置関係から手術が難しく、たとえできても5年生存率は3割ほど。肝臓の内部やリンパ節、骨、肺などに転移があると行われる抗がん剤治療は、奏効率が1~2割。がんの中でも手ごわいタイプです。斉藤さんは、全日本体重別選手権で姿を見せてから2カ月後の訃報でした。

 では、どうするか。川島さんは生前、「仕事を休みたくないから抗がん剤は嫌」とブログにつづっていて、亡くなる直前まで舞台に立っていたのは記憶に新しいでしょう。

 もし抗がん剤治療を受けていたら、吐き気や倦怠感、腎機能障害などの重い副作用で生活の質がガクッと落ち、果たして舞台をまっとうできたかどうか分かりません。

 治療の選択肢が少ないがんと診断されたときは抗がん剤の重い治療は避け、痛みなどを取る緩和ケアにとどめ、生活を優先することも、ひとつの考え方です。胆管がんはすべてのがんのうち2~3%と少ないものの、増加傾向にありますから、そういう考え方があることも頭に入れておくといいかもしれません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。