数字が語る医療の真実

早期発見のがんほど、メリットを実感しにくい

早期発見するとまったく元気な状態で治療が始まる
早期発見するとまったく元気な状態で治療が始まる(C)日刊ゲンダイ

 がん検診の負の面を伝えるのは難しいものです。

 結論から言いましょう。がんは早期で見つければ見つけるほど、メリットを実感しにくく、失うものも大きくなります。

 もちろん、がんを早期発見してすぐに治療すれば、その後の長い寿命を得るということは間違いありません。しかし、その半面、早期発見であればあるほど、症状もなく、日常生活に何の問題もない状態でがんと診断されるわけですから、治療で少しでも悪い面が出ると、その悪い面が強調されることがあるのです。

 例えば、次のようなケースです。あなたが60歳で何の症状もなく、元気なうちに早期胃がんと診断されたとしましょう。すぐに内視鏡で切除しようとしたところ胃に穴が開き、全身麻酔で胃の3分の1を取ることに。その結果、手術後、食事があまり取れず元気がなくなり、うつになって、引きこもってしまった。

 がんを早期発見すると患者さんはまったく元気な状態で治療がスタートしますから、少しでも悪いことが起こると、その害が際立ちます。

 逆に、これが手術前に既に十分な食事が取れず、うつ的な状態から治療が始まっていれば、手術が多少うまくいかなくても、「まあ、こんなものか」と受け入れやすいものです。うまくいけば、より大きな喜びを得ることができるでしょう。

 早期発見・早期治療であればあるほど、治療のメリットを感じにくく、害の影響を受けやすいというのは、理解しやすいことではないでしょうか。がん検診を受けるかどうかを考えるときに、こうした視点も考慮する必要があるのですが、そこはむしろ伏せられている面があり、大きな問題です。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。