スマホが医療を変える

病気の治療はできるのか?

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 スマートフォンを病気の治療に役立てようという取り組みが急速に進んでいます。米国を中心に、多数のベンチャーや大企業が入り乱れて、スマホ対応のウエアラブル治療装置の開発競争を展開しているのです。

 先陣を切ったのは、あるベンチャーが開発した慢性疼痛治療器。スポーツ用のバンドに電極を取り付けた単純な装置です。ホームページによると、これをふくらはぎに巻きつけて、パルス電流で神経を刺激します。するとそれが脳に伝わって、痛みを和らげる物質の分泌を促すのだそうです。スマホと接続でき、治療履歴などが記録できるようになっています。すでにFDA(米食品医薬品局)の承認を得ており、資金調達も順調に進んでいるようです。

 しかし、主戦場は「ウエアラブル人工膵臓」です。もちろん糖尿病患者がターゲットです。とくに「1型」と呼ばれる児童期に発症する糖尿病では、ほとんどの患者がインスリンに依存する生活を余儀なくされます。

 注射のほか、体に装着して自動的にインスリンを注入してくれる「インスリンポンプ」がすでに広く使われているのですが、これらの治療法には、2つの重大な欠点があります。血糖値のモニタリングと低血糖対策が、自動的にできないことです。

 インスリンには血糖値を下げる作用があるのですが、投与量や体調によって下がりすぎ意識障害や失神を起こすことがあります。

■慢性疼痛や人口膵臓との接続も

 健康な膵臓は血糖値を感知して、下がってくると「グルカゴン」と呼ばれる血糖値を上げるホルモンを分泌します。しかし、1型患者の膵臓はグルカゴンを分泌する力も弱いため、低血糖になりやすいのです。

 人工膵臓は血糖値を常時モニターして、高くなればインスリンを、低くなればグルカゴンを注入する機能を備えた装置です。開発中の人工膵臓は、スマホにデータを自動的に転送し、専用アプリで状態を常にモニターできるようになっています。また異常があれば、病院や医師に状況を自動配信することもできます。

 すでにFDAに医療機器として申請を出している会社もあり、早ければ来年にも患者に届くはずです。ただし、日本での申請は、残念ながらまだ行われていません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。