治療の難題をクリア 「進行パーキンソン病」新薬の実力

働き盛りでの発症も多い(写真はイメージ)
働き盛りでの発症も多い(写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 9月1日にパーキンソン病の新しいタイプの治療薬の発売が開始された。これにより、進行パーキンソン病患者の治療の選択肢が増えた。

 パーキンソン病は、多くは原因不明で、脳の黒質という部分の神経細胞が減少し、運動の仕組みを調節する働きを担う物質「ドーパミン」が減る疾患だ。

 主症状は「動きが緩慢になる・動けなくなる=無動」「手足が震える=振戦」「筋肉が硬くなる=固縮」「体のバランスが悪くなる=姿勢反射障害」の運動症状。加えて、非運動症状といわれる自律神経症状、睡眠障害、精神症状、認知機能障害、痛みなども見られる。これらの症状が出る前に、便秘、嗅覚障害といった前駆症状も分かっている。

 残念ながら完治する手段はなく、薬で症状を抑えるしかない。しかし、発症して間もない時期には薬はよく効くが、発症後、5~6年経過する頃には、効果にばらつきが出てくる。次第に効きづらくなり、さまざまな症状が表れる。

「ウエアリングオフ現象やジスキネジア現象が見られるようになり、より進行すると運動・非運動症状の増悪、認知症、転倒などが起こりやすくなります」(順天堂大学医学部神経学講座・服部信孝教授=以下同)

■症状に応じて投与量を微調整可能

 ウエアリングオフ現象は、スイッチをオン・オフするように、服薬後、数時間で薬の効果が切れて動けなくなる(オフ状態)。ジスキネジア現象は、自分の意思とは関係なく、体の一部が自然に動く。

 今回の新薬は、既存の薬物治療では十分な効果を得られず、ウエアリングオフ現象などが起こるようになった患者を対象としたもの。

 経口投与だった既存薬と違い、今回登場した新治療薬は、専用のチューブを通して空腸(小腸の一部)へ直接薬を投与する。しかも、16時間持続して、だ。チューブは、腹部に開けた穴(胃ろう)から空腸へつなぐ。

 なぜ、パーキンソン病は進行すると薬物治療で症状をコントロールすることが困難になるのか? 服部教授は次の2点を挙げる。

 まず、「有効治療域の狭小化」だ。

「パーキンソン病が進行すると患者さんが動きやすいと感じる薬物の血中濃度の幅(有効治療域)が狭くなります。これに対して、断続的な経口薬では対処ができない」

 次に、「胃内容物排出遅延」がある。

「パーキンソン病では胃など消化管の働きが悪くなり、胃内容物の排出に遅れが生じます。すると、薬剤が小腸で吸収されるタイミングにばらつきが生じ、薬物血中濃度を安定して維持するのが難しくなるのです」

 空腸へ直接、16時間持続して投与する新治療薬なら、この2点の問題がクリアできる。

 臨床試験では、重度の運動症状が見られる進行期パーキンソン病患者が、新治療薬に切り替えた。すると、投与12週間後には、1日当たりの平均オフ時間(薬の効果が切れて動けなくなる時間)が、既存薬より大幅に減少した。その後、52週以降の評価でも、明らかな差ができた。

 これまでのパーキンソン病の薬は、数年すれば効きづらくなっていたが、今回の新治療薬は世界でも2年間のデータしかないので、その点は分からない。

「しかしこの薬の利点は、患者さんに応じて投与の量を調整できるところ。経口薬では、副作用を心配して十分量使用できない傾向があったが、それが、効き目を見ながら微調整できるのは大きいです」

 新治療薬で「希望が生まれた」と話す専門医もいるという。

関連記事