スマホが医療を変える

米国で実証実験 スマホでの健康管理が保険料を左右する?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 医療保険の世界でも、スマートフォンの普及によって地殻変動が起こりつつあります。とくにネット通販の保険が影響を受けています。パソコン利用者が減り、代わりにスマホ利用者が増えたことから、営業戦略や商品そのものの見直しを迫られているのです。

 スマホの狭い画面で複雑な商品を紹介するのは大変です。しかも契約までの操作が複雑になれば、利用者はすぐに逃げてしまいます。

 ただし、これはささいな問題。本当の地殻変動はもっと深刻で、我々にとっても脅威になりかねません。

 アメリカでは、保険会社が「加入者がスマホで健康管理をしているかどうか」で保険料に差をつけ始めたのです。毎日の体重や血圧などのデータを、ウエアラブル機器と専用アプリで記録している加入者には、保険料の値引きを行うという会社が出てきました。「値引き」と書くと得するような気になりますが、逆の見方をすれば、真面目に健康管理をしない加入者は相対的に保険料が上がるのと同じことです。

 同様のことが直ちに日本で始まる可能性は、いまのところ低そうです。しかし、すでに外資系を含む数社が大企業の健康保険組合とタイアップして、スマホによる健康管理の効果について実証実験を始めています。

 日常的に健康管理に気を配っている人と、そうでない人とで病気になる確率や死亡する確率がどのくらい違うかを、明らかにしようというわけです。そうしたデータが蓄積されてくれば、生活習慣や健康管理の程度に基づいて、生命保険や医療保険の保険料に差がつくようになってくるはずです。

 それでも、民間保険の場合は任意加入なので影響は限定的。もっと深刻なのは、公的な健康保険に差がつく可能性です。世間には「努力した人と努力しない人の保険料が同じなのはおかしい」という思いが蔓延しています。

 つい先日も、国会議員から「健康ゴールド免許」の話題が飛び出してきました。普段から健康管理を行っている人の医療費負担を優遇しようという提言です。実現すれば、保険料や病院窓口での支払いに差がつきます。メタボを放置したままの中年サラリーマンにとっては、生きにくい世の中に向かっているわけです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。