夢の抗がん剤「オプジーボ」はどこまで値下がりするのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高い治療効果から夢の新薬ともてはやされる一方で、高額ゆえに批判が集中する新型がん治療薬「オプジーボ」。体重60キロの肺がん患者が1年間使うと約3500万円かかるといわれる薬価は、年40兆円を超える医療費の増大に拍車をかけ、公的医療保険を破綻に追い込みかねないともっぱらだ。厚労省は特例で「最大25%引き下げ」を狙ったが、政府の経済財政諮問会議などは「まだ高い」とさらなる引き下げを迫っている。どこまで下がるのか?

「治療法のなかった腎細胞がんへの適応拡大も決まったこともあり、段階を踏む形で少なくとも30%以上は下がるのではないでしょうか?」

 こう言うのは政治・医療分野に詳しいジャーナリストの村吉健氏だ。根拠は今年4月にC型肝炎新薬「ハーボニー」など6品目が特例拡大再算定に該当するとして、30%超の値下げとなったからだ。

「儲けすぎの薬に適用される特例拡大再算定は2種類あって、①年間販売額が1000億~1500億円でかつ予想販売額の1.5倍以上と見込まれる薬は最大25%、②年間販売額が1500億円を超え、かつ予想販売額の1.3倍以上が見込まれる薬は最大50%の値下がりとなります。厚労省はオプジーボを①に該当するとして最大25%の引き下げで幕引きさせる狙いでした。ところが政府内からもさらなる引き下げ要求が続出。落としどころは30%超の引き下げではないかと考えられているのです」(村吉氏)

 オプジーボをいまの価格で5万人のがん患者が1年間使えばその費用は1兆7500億円に達するとの試算もある。値下げは当然だが、問題はなぜオプジーボの価格はこれほどまでに高く設定されたのか、だ。

「2年前の発売当時、年470人程度の皮膚がん患者で採算が取れるように価格決定したからです。ところが、昨年12月に肺がんへの適応が決まり、対象患者数が一気に年1万5000人程度に急増した。このとき、C型肝炎新薬と同じように特例拡大再算定を適用していれば、4月に値下げできたのに、なぜか素通りした。そもそも皮膚がん患者より先に肺がん患者を対象に発売していれば、これほど価格が高くなることもなかった。それもあって儲けすぎとの批判が集中したのです」(都内の開業医)

■政府は年度内にも50%値下げで最終調整

 この批判に拍車をかけたのが全国保険医団体連合会(保団連)の調査。オプジーボ100ミリグラムの価格は英国で約15万円、米国で約30万円に対して日本は約73万円だと暴露したのだ。

「50%値下げしてもまだ米英より高いのですから政府内からの批判も当然です。しかし、本来なら怒るべき国民は声を上げない。オプジーボがいくらになろうが、医療費の月額上限を定めた高額療養費制度により、患者の負担は変わらないからです。それはとても危険なことです」(村吉氏)

 実は、オプジーボの価格は今後のがん治療の主力となる新型がん治療薬の価格の基準になる。少々の値下げで満足していたら将来に禍根を残す。

 例えば、9月に製造販売が承認されたキイトルーダ。オプジーボと同じ作用機序の新型がん治療薬で、対象となるがんも重なる。この薬は先の欧州腫瘍学会でオプジーボが結果を出せなかった初期の肺がんにも効果があると発表された。

「現行通りのルールなら、その価格は同じ作用機序のオプジーボの価格が基準となり、オプジーボより優れている点があれば加算し、さらに英米独仏の平均薬価を参考にして決められます。仮にオプジーボが50%引き下げられたとしても米国で1人年間約1500万円ともいわれるキイトルーダの薬価は日本でそれ以上に跳ね上がる可能性は十分あります」(村吉氏)

 新型がん治療薬はほかにも続々と申請されている。値下げしても安いとはいえないオプジーボを基準に承認され続ければ、日本のがん治療は世界一高価なものになりかねない。厚労省はここにきて年度内にも50%値下げで最終調整に入ったというが、果たしてそれで十分なのか。

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