スマホが医療を変える

日本政府の独自路線 「データヘルス」は時代遅れ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 世界がスマホ医療へと進むなかで、日本政府は独自路線を目指しています。「データヘルス」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。安倍政権の医療政策の目玉として、また成長戦略のひとつとして、2013年に閣議決定されたものです。実は昨年度から本格始動したことになっているのですが、ほとんど盛り上がりを見せていません。

 病院などで毎日発生するレセプトデータ(医療費の明細情報)と、毎年のメタボ健診データを活用して、国民の健康管理に役立てようというものです。各健保組合でデータの分析を行い、その結果をもとに、組合(会社)ごとの課題を抽出します。

 たとえばA社は高血圧や循環器病患者が多い、B社は糖尿病や予備群が多い、といった具合です。次にそれらの課題を解消する計画を立てて実施するのですが、それは民間業者に委託してよいことになっています。メタボが多いC社が、有名フィットネスクラブとタイアップしても構わないということです。こうして生活習慣病患者を減らし、同時に健康産業の発展を目指そうというのがデータヘルスのねらいです。

■国民へのデータ還元が大事

 趣旨は賛同できますが、時代遅れの手法といった印象を拭えません。それよりはスマホ医療を積極的に活用するほうが、効果が上がりそうです。メタボ健診もレセプトも、データがすべて電子化されているのですから、それらを標準化されたフォーマットで、個人のスマホに提供するべきなのです。自分の過去から現在までのデータを見られるようになれば、必然的に国民の意識が変わります。あとは民間に任せておけばいいでしょう。データ解析用のアプリを開発する会社はいくらでも現れますし、日々の健康情報と組み合わせることで、それぞれ最適な運動や食事やサプリメントの指導を行う会社も出てくるはずです。

 血液検査は当分スマホでは無理でしょうが、逆に病院でもっと気軽に血液検査を受けられるようにし、結果をスマホに配信するようにすれば、さらに効果が上がります。国民へのデータの還元が大事なのです。あとは霞が関の役人たちが干渉しなくても、国民レベルで健康増進の機運が高まっていくはずです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。