Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

M・ダグラス公表 舌と喉の腫瘍は放射線で生活機能を守る

 通常、早期舌がんの治療は手術が基本ですが、舌に放射線が出る線源を刺して放射線を直接照射する組織内照射なら、切らずに治すことも可能です。舌を切除すると、食事を飲み下す機能・嚥下や発声が障害される恐れがあります。ダグラスならずとも、これはつらいでしょう。放射線治療や化学療法によって、嚥下や発声を守れる可能性があります。中咽頭がんも、早期なら放射線で6~8割は治ります。

 3つ目は、彼の過去の発言で、「咽頭がんの主な原因は、HPV感染だからね」と語っていたことです。

 HPVはセックスで媒介するウイルスで女性が感染すると、子宮頚がんになりやすいことで知られます。へんとうや舌など中咽頭の粘膜は、子宮頚部の粘膜と環境が似ているため、オーラルセックスなどでHPVが中咽頭に感染すると、中咽頭がんを発症する恐れがあるのです。米国では、中咽頭がんは、6割がHPV感染が原因とされます。

 これらのがんを予防するには、夜の営みを含めて生活改善がとても重要であることがうかがえるのです。そういうことを世界に知らしめた点で、ダグラス発言は大きな意味があります。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。