血まみれにサラバ 歯垢・歯石「30秒でポロリ」の最新治療

対象は神経に達していない軽度の虫歯
対象は神経に達していない軽度の虫歯(提供写真)

 歯を失う最大の原因は歯周病だ。歯垢や歯石に含まれる歯周病菌が歯肉や歯槽骨などの歯周組織に感染。歯ぐきが腫れたり、出血したりして最終的に歯周組織が破壊され、歯が抜けてしまう。

 その治療は歯垢・歯石の除去が基本だが、嫌がる人は多い。歯垢・歯石をガリガリと削り取る音や衝撃の不快感に加え、歯肉が傷つくことで口の中が血まみれになるケースも多いからだ。しかし、最近は歯に薬を塗りつけるだけで歯垢・歯石が取れる最新治療法があるという。

■歯肉を傷つけることなく除去

 定年を迎えた多田康之さん(仮名、65歳)は退職金でインプラントを入れた。これまでは痛くて食べられなかったせんべいも、バリバリ噛み砕けて、満足していた。

 心配だったのは歯垢・歯石。インプラントの人は、歯垢・歯石を放っておくとインプラント歯周炎となり、インプラントがダメになる恐れがある。ところが、歯垢・歯石の除去に使われる一般的な超音波スケーラーはインプラントにダメージを与えるため、直接歯茎に当てることはできない。

「歯磨きを一生懸命やっていますが、やはり、磨き残しが出て歯垢・歯石が付いてしまいます。インプラント用の歯垢・歯石除去のスケーラーなどもありますが、『もっと簡単にできないか』と歯科医師に相談したところ、勧められたのが『ペリソルブ』だったのです」(多田さん)

 ペリソルブは歯垢・歯石除去を目的とした最先端の薬剤で、歯の表面に塗るだけで歯垢・歯石を取ってくれる。市川歯科医院(東京・虎ノ門)の市川信一院長が言う。

「この薬は、スウェーデンで開発された『カリソルブ』と呼ばれる虫歯の治療薬を進化させた薬です。カリソルブは健全な軟組織やエナメル質、象牙質には作用せず、虫歯だけに作用して溶かす。そのため健康な歯を損なうことなく、虫歯を治療できるのです」

 対象は神経に達していない軽度の虫歯。日本では9年前に厚労省で認可されているという。

「ペリソルブはカリソルブと同じ、安全性が確認された次亜塩素酸ナトリウムとアミノ酸を使用しています。歯垢や歯石だけに作用するので、歯肉を傷つける可能性は、ほとんどありません」(市川院長)

■塗って30秒でポロリ

 実際の治療は簡単だ。歯垢や歯石が張り付いた歯の表面に直接薬剤を塗るだけ。30秒ほどで歯垢・歯石が軟らかくなる。ポロリと取れることもあるという。あとは専用のスケーラーで除去すればOK。歯周ポケット内にできた歯垢・歯石も、場所によっては歯肉を傷つけることなく除去できるという。

「重度の歯周病の患者さんは歯茎を切開し、歯周ポケット内に深く入り込んだ歯垢や歯石などを取り除くフラップ手術と呼ばれる治療を行います。ペリソルブがこれに替わることはありませんが、歯周ポケット内に浅く入り込んだものは対応できる可能性もあります。今後はインプラントの人はもちろん、高齢者や寝たきりで歯のケアを出張歯科医に頼らざるを得ない人などにも広がるかもしれません」(市川院長)

 通常の歯垢・歯石取りでは、細菌の塊である歯垢や歯石が口の中に飛び散り、出血している歯肉から細菌や真菌が血管内に侵入して思わぬ全身病を引き起こしかねない。唾液とともに肺に入って誤嚥性肺炎を起こす可能性もある。ところが、ペリソルブには強い殺菌作用があり、こうしたリスクを最小限に抑えることができるという。

 この治療法は公的保険の対象外。決して安いとは言えない。それでも、手軽に歯周病を予防できるとしたら検討してもいいのではないか。

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