数字が語る医療の真実

助かるのであればがんは「遅く」見つかった方がいい

「できるだけ早く見つけて、早く治療したほうがいい」――。これが、がん検診のコンセプトです。しかし、今回は「結果が同じなら、できるだけ遅く見つかったほうがいい」という話をしましょう。

「遅く」というのが「早く」の誤りではないかと思われたかもしれませんが、そうではありません。

 具体的な例で考えてみましょう。がんが1ミリの大きさで見つかっても、10ミリの大きさで見つかっても、50ミリで見つかっても、治療によってその後は同じような寿命が得られるとしたら、あなたにとってどれが一番いいでしょうか。

 多くの人は、「そりゃあ、1ミリで見つかる場合だろう」と言うかもしれません。しかし、そこには「より早く見つかった方が寿命が長いに違いない」というような前提をすでにつくっている面があるのではないでしょうか。よく考えてみてください。「寿命が同じ」だとしたら、どうでしょうか。

 1ミリから10ミリになるまで10年、10ミリから50ミリになるまで5年を要するがんだとしましょう。1ミリで見つけた場合、10ミリで見つけるより10年、50ミリで見つけるよりは15年長く、「がん治療と付き合って生きていかなければならない」という負の面があるともいえます。

 さらに、この人が10年目で心筋梗塞によって突然亡くなってしまったとしたらどうでしょう。1ミリで見つけたがんを取っても取らなくても、結果は同じです。内視鏡検査で苦しい思いをして、診断を受け、切除をした。しかし、結果的にはその人の寿命に関係なく、検査や治療で無駄に苦しんだということです。

 結果が同じなら、余計なことはせず、「早く見つけなくてもよかった」というのが普通の考え方でしょう。早く見つければ見つけるほど、がん治療と長く付き合うこととなり、無駄な医療を受ける可能性が高くなるのも、がん検診の負の側面の一つです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。