ドキュメント「国民病」

【変形性膝関節症】60歳なのに杖なしで歩けなくなった女性

両足はO形に変形…
両足はO形に変形…(提供写真)

 多くの人がかかる国民的な病気は、どのように発症し、どのような経過をたどっていくのか。治療費はどのくらいかかるのか? 実際の患者さんに聞いてみた。まずは、1000万人以上の患者数がささやかれる変形性膝関節症だ。

「手術して膝に『人工関節』を入れた方がいいのかもしれない。でも、失敗して歩けなくなったらどうしよう」――。

 東京都清瀬市に住む専業主婦、高橋咲子さん(仮名、65歳)はこの半年間、膝の手術を受けるか否か、思いあぐねている。

 40歳半ば頃から、長く歩くと両膝が痛むようになった。自宅から近い「国立西埼玉中央病院」(現在=国立病院機構・西埼玉中央病院)整形外科で受診した指診やレントゲン検査で、「変形性膝関節症」と診断される。診察料は3割負担で約3000円だった。

 40代から急増する変形性膝関節症は、大腿骨と脛骨(すねの骨)の間に位置し、クッションのような役割を果たす軟骨がすり減ったり、変形する病気だ。足を動かすと骨と骨がぶつかるなどして、強い痛みを伴う。

 厚労省の統計(2007年)によると、同疾患の「自覚症状を有する患者数」は約1000万人。潜在的患者数はざっと3000万人とも推定される。男女の比率は1対4と女性に多い。

 この病気の問題は両膝の痛みばかりではない。高橋さんは親族の法事では正座が難しくなり、いつも横座り。それでも、立ち上がるときに激痛が走る。

 これまでは「鎮痛薬」「湿布薬」「サポーター」など、対症療法でごまかしてきた。しかし、症状は加齢と共に悪化する一方だ。

■階段も幼児のようにハイハイで上り下り

 50歳を過ぎると、自宅から最寄り駅までの片道2キロが満足に歩けなくなった。途中で2、3回立ち止まり、膝をさすりながらため息をつく。

 60歳になると、自宅の階段が上れなくなる。昔は洗濯カゴを抱えてトントンと上っていたのに、いまは階段に両手をついて上り、下りるときは同じ姿勢で後ろ向きという情けなさ。まるで幼児のハイハイ状態である。

 両脚もいつの間にかO形に変形し、玄関先にある郵便受けに行くのもおっくうになってしまう。

 まだ60歳を越えたばかりで少し恥ずかしいが、外を歩くときは、ホームセンターで買い求めた1980円の杖に頼るようになっていた。