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【脊椎圧迫骨折】東部地域病院 整形外科(東京都葛飾区)

東部地域病院 整形外科の嶋村佳雄部長
東部地域病院 整形外科の嶋村佳雄部長(提供写真)
背骨のいつの間にか骨折はバルーンで治す

 65歳以上で「背中や腰が痛い」「4センチ以上背が縮む」「背中が丸くなる」などの症状があれば、脊椎(背骨)が潰れる圧迫骨折の可能性がある。主な原因は「骨粗しょう症」だ。

 同科は、骨粗しょう症による脊椎圧迫骨折に対する「バルーン椎体形成術(BKP)」という低侵襲手術を行うことができる施設。この手術は2011年1月に保険適用になった比較的新しい治療法で、実施できるのは研修を受けた医師のいる施設に限られる。これまで120例以上行ってきた同科の嶋村佳雄部長(顔写真)が言う。

「当院は地域医療支援病院なので、患者さんのほとんどは『かかりつけ医』からの紹介ですが、ご本人は『ぎっくり腰がなかなか治らない』など、圧迫骨折に気付いていない人が多い。特に女性は閉経後に骨粗しょう症が急速に進むので、高齢者の『いつの間にか骨折』を見逃さないことが重要になります」

 脊椎が1個でも骨折すると、2個、3個と骨折連鎖が起こる。すると背中が丸くなり、胸が圧迫されて肺活量や食欲が低下する。加えて、腰などの慢性的な痛みがあると抑うつや睡眠障害も起こる。結果、日常の活動量が減るので、さらに骨が弱くなり、最終的には「寝たきり」になる危険性が高まるのだ。

「レントゲンで圧迫骨折が見つかったら、治療の基本は保存的療法です。コルセットを着けて、3週間以上ベッドの上で安静にして潰れた骨が癒合(固まる)するのを待つのです。その間、痛み止めや骨粗しょう症の薬も使います」

 保存的療法で8割以上の患者は癒合するが、骨粗しょう症が進行していて癒合しないケースもある。その場合、従来であれば金属のネジや棒で骨を固定する大がかりな手術(固定術)が必要になる。それが同科では、第2選択肢としてBKPの検討ができるのだ。

「BKPは全身麻酔でうつぶせに寝た状態で行います。背中に針を刺し、骨折した椎体へ細い経路を作り、そこへ小さなバルーン(風船)の付いた器具を入れます。そして、バルーンを造影剤で徐々に膨らませ、潰れた骨を持ち上げて、できるだけ元の状態に戻します。その空間に骨セメント(樹脂)を加圧せずに充填して埋めるだけです」

 手術時間は1時間以内には終わり、骨セメントは20分ほどで固まる。手術の傷は、背中に刺し傷が2カ所だけ。入院は平均1週間、早い人では3日で退院できる場合もあるという。

「術後は、背中や腰の痛みがウソのように改善するので、患者さんから『先生、魔法ですか?』と聞かれるほどです」

 ただし、骨粗しょう症が治るわけではないので、術後は骨粗しょう症の薬の使用は続ける。薬が効いてくるまでの3カ月~半年はコルセットの着用が必要になるという。

「脊椎の後側が潰れて、脊髄方向に骨が突出している症例は、BKPの適応にはなりません。ひどくなって固定術しかできなくなる前に、BKPで早めに骨折連鎖をストップさせた方がいい。65歳以上で“長引く腰痛”は、圧迫骨折を疑うキーワードです」

データ
 東京都と東京都医師会が設立した公益法人東京都保健医療公社が運営
◆スタッフ数=医師5人(うち脊椎担当医2人)
◆年間初診患者数(2015年度)=2115人
◆年間手術総数(同)=368件(脊椎手術は120件、うちBKPは12件)