無理なダイエット経験者は要注意 サルコペニア肥満の怖さ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「オレは10年前から体重、お腹回りが変わらない」と健康自慢しているあなた、サルコペニア肥満をご存じだろうか? 糖尿病や高血圧のリスクを上げ、放っておくと40代でも日々の動きが衰え、寝たきりと死亡のリスクが高くなる。要注意だ。

■筋肉が脂肪に置き換わる

 サルコペニア肥満とは筋肉萎縮と肥満を併せ持つ病態を言う。通常の肥満に比べて高血圧や糖尿病になりやすく、歩行や立ち上がりなどの運動能力を低下させる。そのため、寝たきりのリスクが高くなることが知られる。

「筑波大学大学院人間科学科の久野譜也教授の調査によると、男女とも60代で増え始め、70代では3割が該当するといわれています。早ければ40代で始まる人もいます」

 こう言うのは新日本プロレスのリングドクターも務める「弘邦医院」(東京・葛西)の林雅之院長だ。筋肉は鍛えれば、いつからでもつくが、何もしなければ20代をピークに30代以降は年に1%ずつ減っていく。70代には20代の半分になるといわれている。

「多くのエネルギーを消費する筋肉の量が減れば、エネルギーが余り、脂肪として体内に蓄積される。つまり、筋肉が脂肪に置き換わるのです。それでも全体の体重が変わらず、さほど太って見えない人もいます。しかし、MRIなどで調べると、サルコペニア肥満の人は筋肉が少なく、脂肪が多いことがわかります」

 サルコペニア肥満になりやすいのはどういう人なのか?

「よくつまずく」「片足立ちで靴下がはけない、あるいははきづらい」「20代に比べて歩くのが遅くなった」「食事制限のみのダイエット経験がある」「ウオーキングだけで筋トレはしていない」「10年前と体重、体形が変わらない」「肉をあまり食べない」「ダイエットがうまくいかなくなった」「糖尿病がある」「急な階段を下りるのが怖くなった」などの人だ。

 とくに気をつけたいのは、食事制限のみのダイエットの経験がある人。久野教授の研究ではわずか3カ月で5%の筋肉量が減ることが確認されている。50代、60代は注意したい。

■やせながら筋肉量を維持する方法

 では、サルコペニア肥満を解消するにはどうしたらいいのか?

「まず運動です。筋肉は瞬発的に大きな力を出すための速筋と持続的に力を出す遅筋とに分かれています。年と共にやせ衰えていく筋肉の多くは速筋です。これを維持し、増やすにはウオーキングだけではダメ。通常のスクワットと足を前後に開いて行うスプリットスクワット、それに100円ショップなどで買えるハンドグリップなど器具を使った筋トレが必要です」(林院長)

 むろん、脂肪を燃焼するにはウオーキングなどの有酸素運動が欠かせない。つまり、「やせながら筋肉量を維持する」には「筋トレ」と「有酸素運動」が必要なのだ。

 では食事はどうか? 体は十分なタンパク質が入ってこないと、筋肉を分解して必要なタンパク質を補給する。そのため、筋肉の原料となるタンパク質(=アミノ酸)は取れば取るほど良さそうだが、そういうわけではなさそうだ。骨格筋内のオートファジー研究の第一人者である、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の佐久間邦弘教授が言う。

「筋肉の萎縮の原因のひとつに筋肉の細胞内にある、オートファジーと呼ばれるシステムの機能不全があります。不要なタンパク質やミトコンドリアなどを分解・再利用することができなくなり、細胞内がゴミだらけになって筋肉を萎縮させるのです」

 これを活性化させるカギは「運動」と「低栄養」だという。

「食べられない人には良質なタンパク質が欠かせませんが、普段から十分取っている人がさらに取れば、細胞内でゴミになってしまい、筋肉萎縮に拍車をかけることになります。一番良いのは普段から腹八分目、もしくは定期的にプチ断食などをして低栄養状態を作り出すことで、オートファジーを正常に保つことなのです」(佐久間教授)

「筋トレ」と「有酸素運動」、それに「良質なタンパク質、時々プチ断食」。これであなたも健康長寿を実現できる。

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