Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

りりィさんのケース 肺がんの放射線治療は通院で治療

享年64だった
享年64だった(C)日刊ゲンダイ

 ハスキーボイスが思い出されます。1970年代にシンガー・ソングライターとして活躍。女優としてもドラマや映画に多くの作品を残したりりィさんが先週11日、肺がんで亡くなりました(享年64)。74年のヒット曲「私は泣いています」は、私もよく聴いていただけに残念です。

 肺がんは、今年4月の定期検診で見つかったとのこと。ドラマの収録を最後に治療に専念していたそうです。2000年の本紙インタビューで10年の休養期間について「音楽以上にのめり込んでたものがあったんだもの。答えは簡単、子育てよ」と答えていたりりィさん。それから7カ月、「葬儀はしないで」と大切な息子夫婦や家族に見守られながらの旅立ちだったといいます。

 この闘病期間から推察すると、恐らく非小細胞肺がんの末期だったのでしょう。女優の樹木希林さん(73)に紹介してもらった鹿児島の病院で入院して放射線治療を受けていたようです。あくまでも推測ですが、余命を逆算して、負担の重い抗がん剤治療を避け、放射線治療を選択したことがうかがえます。

 3000万円もの薬代(今は半分)が話題になった抗がん剤オプジーボは、皮膚がんの一つメラノーマに適応され、肺がんにも適応が拡大されました。りりィさんのような非小細胞肺がんの末期は、この薬のターゲットですが、がんが縮小した割合は2割ほど。承認前の臨床試験でほかの抗がん剤に比べて優れたデータが得られたとはいえ、“効く人もいる”というのが現実です。

 肺がんは年間約6万5000人の命を奪い、死因は男性が1位、女性が2位。ステージ1の5年生存率は約83%ですが、全体だと約44%。早期発見の啓発が進む今でも、末期で見つかるケースが多く、全体の5年生存率が低くなっていることがわかるでしょう。

 治りやすいといわれる胃がんと大腸がんのデータと比較すると、その差は歴然。胃がんと大腸がんのステージ1は各約97%、約99%、全体だと各約73%、約76%です。

■喫煙とは関係ないタイプが増えている

 肺がんの死亡者数は80年代まで右肩上がりでしたが、90年代後半から男女ともほぼ横ばい。禁煙が進んだためです。それでも肺がんと診断されてからの経過がよくないのは、たばこと関係ないタイプの肺がん・肺腺がんが増えているのです。男性は4割、女性は7割が肺腺がんとされます。しかも、進行が速く、転移した状態で見つかる方も少なくありません。りりィさんは、肺腺がんだった可能性もあります。

 りりィさんは、保険が利かない自費治療を選択されたようですが、保険が利く放射線は費用が安く、仕事帰りに通院で治療を受けられる病院も。サラリーマンががんにかかると、3人に1人が離職。平均年収は395万円から167万円に低下するという調査もあります。

 がんと長く向き合う上では、仕事を続けられるような治療を選ぶことが大切。その点でも、通院で治療可能な放射線は、優れています。早期なら治療効果は手術と同等です。末期なら、骨転移による痛みや脳転移による麻痺を取ったりするなど症状を和らげることもできるのです。

 早期から末期までオールラウンドに使える放射線治療は、もっと選択されていいと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。