ドキュメント「国民病」

【変形性膝関節症】ストロイド剤注射で血糖値が急上昇し

 歩くと痛みが走る「変形性膝関節症」の保存療法のひとつに、痛みや炎症を抑制する「ステロイド剤」関節内注射がある。

 東京都清瀬市に住む専業主婦、高橋咲子さん(仮名・65歳)もこの20余年間、両膝の痛みに苦しんできた。

 痛みがあまりにも激しいと、週に1回、自宅近くのクリニックで「ステロイド剤」注射を打つ。ところがこの「ステロイド剤」の注射で、予想外の問題を体感した。

 高橋さんは「血糖値」(HbAlc、正常値4.3~5.8%)が高いことから、2カ月に1回「西埼玉中央病院」(所沢市)で血液の検査を受けていた。

「2カ月前の血液検査で、過去1カ月の血糖の状態を表す『HbAlc』が5.1だったのに、わずか2カ月で7.5%に上昇。担当医から『これは糖尿病の数値ですね。たくさん食べましたか? 2週間ほど入院してください』と、言われたのです」

 とくにたくさん食べた記憶はない。不安を抱いた高橋さんは、30年来の主治医である近所の内科医院を訪ねた。院長は、「どうして急に血糖値が上がったか分からないが、血糖値を抑える食前の薬を処方しましょう」と、2種類の糖尿病治療薬を渡された。

 高橋さんは長年「変形性膝関節症」に苦しみ続け、その上、今度は糖尿病の疑いまでかけられてますますへこんでしまう。

 なぜ突然「血糖値」が上がったのか。その原因を突き止めたのが「眼科病院」だった。

 飛蚊症も進行していた高橋さんは、自宅近くの眼科医院で定期的に診察を受けていた。院長と雑談をしていたとき、「先生、急に『血糖値』が上がって困っています」と言うと、「あなた、『ステロイド剤』を打ってない? 私の患者さんにも同じような患者さんがおりましたよ。あなたに合わない注射だから、すぐやめなさい」と指摘されたのだ。

 それから高橋さんは「ステロイド剤」の注射をやめ、2カ月後に再び血液検査を受けた。すると、「HbAlc」が6.5%に下がり、さらに2カ月後の血液検査で5.9%と正常に戻った。

 膝関節の治療では全国でもトップクラスの東京慈恵会医科大学・整形外科の斎藤充准教授(診療副部長)が言う。

「膝関節の治療薬にステロイドを用いて、血糖値が上がる患者のケースはあります。ステロイドは肝臓での糖新生を促進して、各組織での糖の取り込みを抑制したり、インスリンに対する抵抗性を高めてしまうなどの機序により、糖尿病を引き起こすことが指摘されています。ですから私は注射や飲み薬も同じですが、糖尿病を持つ膝関節症の患者治療には、ステロイドの使用を慎重にしています」