ドキュメント「国民病」

【変形性膝関節症】手術の主流は人工膝関節置換術

 厚労省の調査によると、「変形性膝関節症」に苦しむ患者数は、潜在的な患者も含めると、ざっと3000万人。加齢に伴って増加する、まさに国民病とも言える疾患だ。東京都清瀬市に住む専業主婦、高橋咲子さん(仮名、65歳)は40代半ばから両膝の痛みに苦しんできた。

「もう痛み止め薬などの保存療法ではお先真っ暗。少し怖いけど、手術を考え始めました」

 こう語る高橋さんは、医学専門誌やネットで手術にたけた病院の情報を集め始めた。

 できることなら自宅から少しでも近い病院がいい。数件の病院に問い合わせをしてみると、「予約してから手術日まで1カ月、または2カ月待ってください」という返事である。高橋さんはあらためて、変形性膝関節症に悩む患者があまりにも多いことを知った。

 現在、「変形性膝関節症」で主流になっている手術には、どのようなものがあるのか。

「東京慈恵会医科大学付属病院」(本院=新橋)の整形外科・斎藤充准教授(診療副部長)が言う。

「変形性膝関節症は、症状の具合によって大きく『初期』『中期』『末期』に分けることができます。その手術の主流は『人工膝関節置換術』(TKA)です」

 同病院による人工膝関節置換術は年間約175例、両膝同時に行うケースは54例に及ぶ。

「私は、40代から最高齢で88歳までの患者を手術していますが、片側の人工膝関節置換術の平均所要手術時間は1時間15分です。両膝同時の手術の場合は、片方終わって、すぐさまもう片方の手術を行うので、片側の2倍の2時間半で終了します」(斎藤准教授)

 そもそも人工膝関節置換術とは、どのような手術なのか。

 20世紀の整形外科分野で最も発展し、成功した手術といわれるが、要するに手術にコンピューター(「コンピューター支援システム」=CAS)を導入した手術方法だ。

 術前に患部をCTで撮影し、コンピューター上に構築された3次元画像をもとに手術シミュレーションを行う。

 このデータを用いて痛んでいる膝の骨を切り取った後、インプラント(素材はセラミックなど)を設置するという。

「虫歯の治療に例えてみましょう。虫歯の痛い部分を正確に削り、そこに金歯をきっちりとかぶせるイメージですね。もちろん曲がっている歯を真っすぐにもします。怖い手術のように思うでしょうけど、実際は、関節の表面を最大でも8ミリほど削るだけです」(斎藤准教授)

 手術料金は、3割負担で片足10万~両足20万円。高額医療負担の免除で、個人負担は約10万円程度だという。