この連載で何度となく語っているのは、がんの早期発見、早期治療。がんは怖い病気というイメージがあるかもしれませんが、早期発見できればがん全体の5年生存率は9割を超えます。多くのがんが早期なら治るのです。早期発見が重視されるゆえんはここにあります。
もしがんの発症そのものを食い止めることができれば、早期発見より確実でしょう。実は、そんなうまい方法があるのです。細菌やウイルスの感染によって生じるがんなら、感染をブロックすればよくて、その3大がんが、ピロリ菌の持続感染による胃がん、HPV感染による子宮頚がん、肝炎ウイルスによる肝臓がんです。
今回はそのひとつ、胃がんについてお話ししましょう。昨年の統計では、胃がんは大腸がん、肺がんに次ぐ約13万3000人が発症し、約4万9000人が亡くなっています。古くは徳川家康がこのがんで苦しんだとされていて、“がんといえば胃がん”と恐れられた時代もありました。
それだけに、胃がんを食い止めることは、医学的にも社会的にも大きなインパクトがあります。佐賀や大分、兵庫、大阪、長野、山形、秋田、北海道などの市町村では、中学生らを対象にピロリ菌の検査と除菌に取り組む自治体が増えているのです。
■欧米では白血病より稀
尿検査からピロリ菌感染が疑われると、2次検査が行われ、それで陽性だと、除菌治療の対象になり、費用は自治体の助成が受けられます。治療は、成人と同じ抗生物質を1週間服用するだけです。下痢や味覚障害などの副作用もありますが、試してみる価値はあるでしょう。
ピロリ菌は井戸水などから感染。60歳以上の方は8割が感染していますが、冷蔵庫が普及し、衛生状態がよくなったことで、中学生のピロリ菌感染率は5%ほどに低下。それでも胃がんは95%がピロリ菌感染が原因で、感染から20~30年を経て胃がんを発症すると分かっていることから若い人の除菌が検討され始めているのです。
欧米のピロリ菌感染率は、日本の半分以下。欧米で胃がんは、白血病より珍しいがんになっています。日本だと、昨年、白血病を発症したのは約1万3800人で、胃がんの10分の1。除菌治療が広がると、胃がんで苦しむ方は確実に減ることが予想されるのです。
自治体などが将来の予防として中学生の除菌に力を入れるのはもちろん大切ですが、目先の対策として欠かせないのはピロリ菌の感染者が多い成人の除菌でしょう。胃潰瘍や胃炎などがあれば、保険で治療が受けられます。
胃がんを心配されるなら、家族で除菌をしてみてはいかがでしょうか。子宮頚がんと肝臓がんについても同様で、感染が原因のがんは予防が一番です。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁