命を脅かすことも…間違いだらけの「心不全治療」

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 心不全の患者やその家族は、現在の治療が適切かどうかを見直したほうがいい。そのままでは、早晩「死」が待っているかもしれない。

 心不全は4つの段階に分類されるが、ここで取り上げたいのは「難治性心不全」といわれる重症度が最も高い段階だ。

「心不全の治療をすべて行ったが、どれも効かずに進行し、悪化する。生命予後を保証できない段階です」

 こう話すのは、富山大学第2内科・絹川弘一郎教授。難治性心不全に至ると、残された打つ手は「心移植」になる。

 しかし、心移植にはドナーが必要になる。待機年数は平均3年半といわれているが、どんどん延びている。現在登録した場合で5年以上、10年後では7年以上も待機しなければならないといわれる。

 そこで行われるのが、心移植までの「橋渡し(ブリッジ)」と呼ばれる治療だ。強心薬と補助人工心臓がある。強心薬は補助人工心臓や心移植が実現するまでの、そして補助人工心臓は心移植が実現するまでのブリッジになる。

 ブリッジは、いわば「治療の過程」なので、患者の状態に応じて適切なタイミングで治療を切り替えていかなくてはならない。しかし、患者や家族はもちろん、医師も認識していないケースが少なくないのだ。具体的に挙げよう。

■薬物治療は短期で「薬」も、長期は「毒」に

(1)強心薬の慢性投与は予後を悪くする

 難治性心不全に対し、強心薬は一定の効果をもたらす。しかし、短期投与という条件がある。

「慢性投与が予後を悪くすることは研究で明らかです。静注強心薬の慢性投与では、1年以内に9割が死亡または補助人工心臓が必要との結果が出ています」

(2)心原性ショックがあればPCPS

 難治性心不全の中でも、補助人工心臓の必要性が緊急な場合と、そうでない場合がある。

「最も重症度の高い心原性ショック(急激に心臓の機能が低下)が起こった場合、生命維持のために直ちに機械的補助を行わなくてはなりません」

 機械的補助の方法はいくつかあるが、日本では大抵の病院にあり速やかに使えるのが「PCPS(経皮的心肺補助法)」。この機械を血管に挿入して心臓の働きを補う。しかし、長期的には使えないため、数日程度でPCPSの挿入を外せなければ、補助人工心臓へ切り替える。

(3)年2回以上の心不全入院に要注意

 前述の通り、難治性心不全の段階になれば、心移植、あるいは補助人工心臓しか手がない。

「しかし、申し込みにはさまざまな手続きが必要とされ、急いでやっても1カ月はかかります。この手続きに手間取っている間に患者さんの容体が悪くなり、補助人工心臓が間に合わなかったケースもあるのです」

 だから主治医は、患者が難治性心不全の段階ではないかどうかを的確に判断しなくてはならない。その指標として、最も注意すべきポイントが「1年間に2回以上の心不全入院」だ。

「2回以上は尋常ではない。治療が行き詰まっている、つまり難治性心不全だと認識すべきです」

 ここまでに挙げた(1)~(3)について、「循環器内科医ならば知っているはず」と思うかもしれない。しかし、絹川教授は疑問を投げかける。

 たとえば、PCPSは地方では実施例が極端に少ない。強心薬を慢性的に投与されている患者もいる。1年間に2回以上心不全の入院を繰り返していても「このままでは命の危険がある」と医師がしっかり説明していないうえ、補助人工心臓を扱う病院がまだまだ少ない事情もあり、患者や家族は「では、様子を見ます」となってしまう。

「1年に2回以上の入院患者の場合、強心薬の治療だけでは1年間で半分ほど亡くなっています。一方、補助人工心臓で8割が生存している。この差は非常に大きい」

 正しい知識こそが、自分の身を守る。

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