ドキュメント「国民病」

【変形性膝関節症】年明けの手術をついに決断

 東京・清瀬市に住む専業主婦、高橋咲子さん(仮名、65歳)の下駄箱には、数本の杖が用意されている。雨傘の数よりも多い。

 20年前に「変形性膝関節症」と診断されて以来、加齢に伴って症状が次第に悪化。数年前から歩行に杖を利用するようになった。

 近所のホームセンターで求めた杖は1本2000円前後。大腿骨(膝より上の骨)が内側に倒れて足がO形に変形し、杖なしでは歩行が困難になったためだ。

 数年前、家族旅行に行ったのが最後で、もうほとんど遠出をする元気がない。

 それでも年に3回ほど、親しい学生時代の友人に会うため、最寄りの駅から乗り換えなしの地下鉄で横浜まで足を運ぶ。

「同じ年齢なのに、友達は待ち合わせ場所に小走りで来ます。私は杖を片手にのろのろと歩きながら近づく……。恥ずかしくて、みっともない……」(高橋さん)

 この20年間、思いつく限りの保存療法はすべてやった。治療のため通院した病院も数え切れない。

 時々、痛み止めの注射を打つ。だが、一時しのぎで、足を少し折り曲げただけでも、激痛が走ることには変わりがない。

 なぜ、こんなことになってしまったのか。思いあぐねるだけで年を重ねてきた高橋さんだったが、11月に入り、ついに年明けの手術を決断した。人工関節手術を受けるという。

「キッカケは、主人から強い口調で『人工関節の手術を受けてみろ』と執拗に勧められたからです。正直言って、心の底では『膝の具合が悪いなんて大したことではない』と思っていました。だから、サプリメントやせいぜい町のお医者さんにしかアドバイスを求めなかったのです。ところが、このままでは車イスの生活になることが避けられない。主人にも迷惑をかけることになる。やるなら今しかないという気持ちにさせられたのです」

■不確かな医学情報に振り回され……

 高橋さんのこの決心をさらに固めさせたのは、大学病院の専門医との話し合いだった。ご主人の知人というこの医師と2時間話すうちに、高橋さんが抱いていた膝関節に関する誤解や手術への恐怖が取り払われたという。

「これまでネット検索や専門誌を熟読し、人工関節の手術に関するいろいろな情報を集めました。知識だけはお医者さんよりも詳しくなったと思い込んでいたのですが間違いでした。その多くが古い情報であったり、誤解で正しい知識ではありませんでした。手術が怖いのも、膝関節についてよく知らず、想像だけで物を考えていたからです」

 専門医との話し合いで「希望を持った」という高橋さんは、膝の痛みから解放され、もう一度、杖なしで家族旅行ができることを夢見ている。

「そもそも仕事一筋の主人に、今更ゴミ出しや料理、洗濯などの家事をさせるわけにはいきませんから。私が頑張らないと、ね」

 何かと多忙な年の瀬を迎えて今、高橋さんは年明けの入院の準備に着手しているという。