独白 愉快な“病人”たち

俳優・声優の田中正彦さん 主治医の言葉で胃がん手術決意

田中正彦さん(C)日刊ゲンダイ

 退院するまでの2週間は、ずっと食べる夢ばかり見ました。実際は、流動食でスプーン2杯のおかゆでしたけど。退院してからも食が細くなって、身長177センチで75キロだった体重が、54キロまで減りました。特にお尻の肉がごっそりなくなり、全身の筋肉が落ちてしまったので、2年半たった今も持続力が足りていません。

 でも、がんを根こそぎ取っていただいたことで、抗がん剤治療は一切なし。今は半年に1度の検診があるだけです。主治医は「胃がんは治ったから、大腸がんの検査でもしておきましょう」と、もう胃には目もくれない感じです(笑い)。

 がんになった60歳は節目の年でした。40年間在籍した劇団を辞めてフリーで仕事をやり始めたタイミングだったので、何かいい区切りになったような気がします。

 ただひとつ切なかったのは、病院の同じフロアに高校生ぐらいの女の子がいたこと。散歩のたびに彼女の病室が見えて、日に日にベッドサイドのぬいぐるみの数が増えていくのが目に入るんです。がんセンターだから、若い患者さんの姿は胸が痛かったな。だからというわけではないですが、病気になって「より長く現役でいたい」という思いを強くしました。しかも細く長くじゃなくて太く長く!(笑い)

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