当事者たちが明かす「医療のウラ側」

日本で唯一認可されている「抗肥満薬」の効果と副作用

都内の40代開業医

 肥満だと、高血圧症、糖尿病、心血管障害、膝関節痛など、さまざまな病気を発症するリスクが増します。

 医学的には、「肥満」は「BMI」(体重を身長の2乗で割って求められる体格指数)が25以上の人をいい、「肥満症」とは、これに加えて健康障害を合併するか内臓脂肪が過剰蓄積した場合をいいます。BMIが35以上になると「高度肥満」と呼ばれます。

 肥満になれば、誰もが「健康のためにもやせなくてはいけない」と思うものですが、実現するのは大変難しい。食事制限や運動などを試して失敗する人は、後を絶ちません。中には「自分は意志が弱いダメな人間だ」と嘆き、うつを発症する人もいます。

 ならば、「薬で肥満を治せばいいではないか」と思う人もいるはずです。実際に、日本では中枢性食欲抑制薬の「マジンドール」が唯一、認められています。中枢性食欲抑制薬とは、食欲をコントロールしている脳に作用して、やせさせる薬のことです。

 そもそも人の食欲は、脳の視床下部と呼ばれるところにある満腹中枢と摂食中枢によって制御されています。脳内の神経伝達物資であるドーパミンの刺激により、「腹が減った」「満腹だ」と感じるのです。

 マジンドールはドーパミンの作用を調整する働きがあり、食欲をなくしたり、食べてすぐ満腹になるように感じさせます。その結果、「ひもじい思いをして食事を制限している」と思わずにやせられる、というわけです。

 むろん、この薬には副作用があります。「吐き気」「便秘」「不眠」「動悸」「頭痛」などです。さらに、長期間服用するとマジンドールに依存する可能性があるとして、厚労省は長くても3カ月しか使えないと定めています。

■日本では別の目的で使われる米国の抗肥満薬

 マジンドールの他に、「セチリスタット」と呼ばれる薬が抗肥満薬として、2013年に販売承認を受けたものの、薬価未収載のため保険適用されていません。

 食べ物の中に含まれる脂質は腸から吸収され、内臓脂肪として利用されますが、そのままの状態では腸から吸収されません。リパーゼと呼ばれる分解酵素が必要です。このリパーゼの働きを阻害する薬がセチリスタットです。

 日本では抗てんかん薬として認可されている「トピラマート」や、糖尿病治療薬として認可されている「リラグルチド」も、米国では抗肥満薬として使われています。