天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓に負担大 「ゴルフの突然死」を防ぐ

順天堂大学の天野篤教授
順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 私は、自分が手術を行って元気になった患者さんたちと定期的にゴルフをしています。一緒にラウンドすることで、その患者さんがどれだけ回復したのかを確認することができますし、何より気心の知れた仲間のサークルのような感覚で楽しんでいます。

 一般的に、ゴルフは心臓に大きな負担がかかるスポーツだといわれています。ある調査によると、プレーしている最中に突然死した人は年間200人前後と推計されています。とりわけ「40歳以上」で突然死を起こしたスポーツはゴルフが圧倒的に多く、原因は心筋梗塞などの心臓疾患が86%を占めていました。

 この数字だけを見ると、ゴルフは危険なスポーツだと思われるかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。中高年になると、高血圧、高血糖、高コレステロールといった生活習慣病を抱え、突然死を招くリスクが高い人が増えていきます。ゴルフは、そうした中高年世代の人口が多いので、それだけ相対的に突然死するケースが増えるということでしょう。

■グリーンとティーショットに注意

 とはいえ、ゴルフが心臓に負担がかかるスポーツであることもまた事実です。心臓疾患を抱えている人や、突然死の危険因子を多く抱えている人は注意が必要です。

 ゴルフ場で発生した突然死の報告を見てみると、その75%がグリーン上のパット時、15%はドライバーでのティーショット時というデータがあります。パターは、昔から「1・5メートルのパットがいちばん心臓に良くない」といわれます。手ごろな距離のパットは「外せない」という緊張感や大きなプレッシャーがかかるため、普段とは呼吸が変わって血圧も一気に上がります。また、打つ際の前かがみの姿勢も心臓に負担がかかります。

 ドライバーショットは、「とりわけ1番ホールの第1打が危険」だといわれています。寝不足のままウオーミングアップもせずに、いきなりドライバーをフルスイングすると心拍数が急激に上がり、心臓の血管を収縮させて発作を招くのです。

 そもそも、ゴルフは「心臓発作が起こりやすくなる状況」が整っているスポーツといえます。たとえば、朝早く起きてゴルフ場に出向くことが多いため、普段は高血圧の薬を服用している人が薬を飲むのを忘れてしまい、血圧が高い状態でコースに出るケースも少なくありません。これは、薬で血糖を下げている人も同じです。

 また、コレステロールを薬でコントロールしている人の中には、ラウンドする数日前からあえて服用を中断する人もいます。コレステロール降下薬は筋肉痛や関節痛などの副作用があるため、スイングに支障を来さないように薬をやめるというわけです。他にも、ラウンド中に水分を摂取せずに脱水状態になり、血液がドロドロのままプレーしているなんてケースもあります。

 いずれも、動脈硬化などによって血管内に形成されたプラークを破綻させ、冠動脈に詰まって心筋梗塞を引き起こす“下地”ができている状態です。そこに、起伏の激しいコースを歩いて回ったり、スイングやパットによって心臓に大きな負荷がかかるわけですから、突然死のリスクはアップします。

 また、いったんコースに出ると、救命の態勢が整っていないことが多いのも、突然死が増える一因になっています。かつて、ある大手企業の社長がラウンド中に心筋梗塞で倒れてそのまま亡くなってしまったことがありました。その時も、その場で蘇生措置は行われず、次の組を回すために倒れた社長の周りに囲いを作っただけでした。万が一の場合に備え、どのような救命措置を行うかをシミュレーションしておくことは重要です。

 心臓疾患を抱えている人はもちろん、生活習慣病を指摘されている人がゴルフをする際には、以下のことを実践してください。①前日はしっかり睡眠をとって、服用している薬は飲み忘れない。②プレーする前にしっかりウオーミングアップをして急激な心拍数の上昇を防ぐ。③飲酒や喫煙をしてプレーすることは避ける。④水分補給や保温を心がける。⑤過度なプレッシャーがかかるような勝負はしない。

 リスクを減らしながら、楽しくプレーしましょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。