ドキュメント「国民病」

【うつ病】抜け出す努力をしてください。数年かかります

患者の苦しみは理解されない
患者の苦しみは理解されない(C)日刊ゲンダイ

 東京・板橋区内に住む越川正則さん(仮名、62歳=人材派遣会社顧問)は、10余年前、当時付き合っていた彼女の強い勧めもあり、東京・御茶ノ水にある「東京医科歯科大学付属病院」で診察を受けた。

「診察を受けた時期はもう無気力状態で、病院にJRで行ったか、地下鉄だったかも覚えていません。診察を受けた窓口も精神科か心身医療科だったかも忘れました」

 診察で、血液、尿、心電図、レントゲンなどの検査を丸一日かけて受けた後、問診を受けた。

 担当医は、各種診察のデータを見ながら「体に病的な問題は見当たりません」と言いつつ、そのまま1時間近い問診が始まった。

「眠れないですか」「自分の人生がつまらなく感じますか」「性格は明るいほうですか、暗いほうですか」「体がだるく、疲れませんか」「食欲はありますか」「もう死んでもいいかと思ったことはありますか」

 こうした質問が20問ほど続き、越川さんはすべてに「はい」と答えた。

「越川さんは立派な『うつ病』にかかっています」

 担当医はそう診断し、さらに付け加えた。

「なぜ、うつ病にかかったかなどと原因を追究しても無駄なことです。それよりも、うつ病から抜け出す努力をしてください。精神的にも肉体的にも、元に戻るまで数年ぐらいかかると覚悟してくださいね」

 診察料は3割負担で約6000円で、「抗うつ剤」を処方された。

 現在は抗うつ剤の医薬研究が進み、「ベンラファキシン」(商品名イフェクサーSR)といった有効な薬も登場している。

「でも、私が処方された医薬品は名前も忘れましたけど、精神安定剤のようなものだったでしょうか。同じ病院にその後2度ほど薬をもらいに行きましたが、面倒になってやめてしまいました」

 こう回想する越川さんは、うつ病から抜け出すまで数年どころか、今年の春先まで10余年の歳月を費やした。

 脳のシステムが侵されるといわれるうつ病だが、実のところ原因はまだ鮮明になっていない。そのため、特効薬もないのが現状だ。

 3年ごとに実施されている厚労省の「平成26年患者調査」によると、「うつ病など気分障害受診者」は、111万6000人。およそ20年前の平成8年(43万4000人)に比べ、約2・6倍も増えている。

 同患者層のトップは40代の19・6%だが、これは受診者数で、潜在的なうつ病患者数はその数倍にも及ぶだろうと推測されている。

「私がうつ病の苦しみをいくら口で説明しても、理解してもらえないかもしれません」

 越川さんの10余年に及ぶ「うつ病生活」は、どれほどの苦渋だったのか。