あの話題の治療法 どうなった?

「病腎移植」の是非 機運が高まれば否定しないが…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 体内の左右に1個ずつ存在する「腎臓」は、血液の浄化、老廃物や毒素の排泄といった働きをする重要な臓器だ。

 そんな重さ150グラムほどの腎臓が加齢に伴って機能を失うなどして、人工透析を受けている患者数は全国で約30万人を数え、さらに毎年6000人ほど増えている。

 こうした末期腎不全患者は、1回4時間前後の人工透析治療を週に3回、死ぬまで受け続けなければならない。だからこそ、多くが腎臓移植を望むが、臓器提供者が見つからないのが現状だ。

 日本の場合、腎臓移植の主流は親子、兄弟、夫婦など家族からの生体腎移植か、もしくは非血縁者(脳死または心肺停止)による提供である。

 厚労省によると「腎臓移植希望者登録数」は1万2373人(2015年9月)。「日本臓器移植ネットワーク」(東京都港区)に登録している移植希望者数は1万2663人(2016年10月31日現在)だ。移植希望者は、登録料3万円のほか、毎年5000円を支払って、移植手術の順番を待つことになる。

 しかし、年間約1600件の腎臓移植の8割程度は家族からで、非血縁者の提供による腎臓移植の幸運に恵まれた患者は、200例ほどしかない。

 自らの保険証に「臓器提供」と明記している東京慈恵会医科大学の腎臓・高血圧内科助教の山本泉氏は言う。

「毎年5000円を支払いながら、腎臓移植の順番が回ってくるまで15年近くかかってしまいます。ドナー不足の問題もあるのですが、腎臓移植などの学会で何か打開策はないかとよく話し合われているテーマです」

 米国の腎臓移植は年間1万7000例ともいわれるが、日本はなぜこれほど手術例が少ないのか。

 山本助教によると、理由のひとつに「現場の問題」があるという。脳死判定に少なくとも2人の医師が必要なうえ、すぐに腎臓移植の手術に取り掛かるにしても、多くの医師を待機させなければならない。それだけ現場の負担が大きく、日本の場合、その医療整備がまだ不十分であるという。

 腎臓のドナー不足といえば、ちょうど10年前、愛媛県宇和島の病院で万波誠医師が「病腎臓移植」を行い、社会的に大きな話題になった。

 たとえば「腎臓がん」の手術では、摘出した病腎は捨てられてしまう。こうした病腎の患部を取り除いて腎移植に回し、再利用することは不可能なのか。

「現在のところ、『病腎臓移植には反対』というのが私の基本姿勢です。4センチ以下の小径の腎臓がんでは、腎臓を全部摘出するのではなく、部分的に切除する方法が奨励されるようになってきています。ただ、病腎移植について、関連学会などで多くの前向きな研究論文が出てくるなど、そうした機運が高まれば、検討するテーマとして否定はしません」(山本助教)

 病腎移植容認の可能性は極めて低そうだ。