Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

北斗晶さんがTV復帰 乳がん治療で失った髪は復活する

芸能活動休止以前の北斗晶さん
芸能活動休止以前の北斗晶さん(提供写真)

 医師としてもうれしいことです。乳がんの闘病で芸能活動を休止していたタレントの北斗晶さん(49)が29日、1年2カ月ぶりにテレビ番組に生出演。「元気に帰ってきちゃいました」と笑顔を見せていました。

 放送終了後は報道陣に対応。「薬の治療を5年、10年と続ける感じ」と語り、次の打ち合わせ場所に向かったとのこと。治療がうまくいっている様子がうかがえ、医師としても何よりです。

 この日の放送では、ジェルで髪形を整えてベリーショートスタイルにまとめていました。一連の報道によると、手術後は4月まで抗がん剤治療と放射線治療を受け、現在はホルモン療法に切り替えて治療を続けているようです。

 一般に抗がん剤治療を終えて2カ月ほどで発毛が始まり、それから4カ月くらいでカツラが不要になるくらいのボリュームに。カツラがいらなくなったことが、仕事復帰の決め手になったようです。

 女性にとって、髪の毛は大切なもの。読者の周りにも、脱毛のショックでふさぎ込んでいる女性がいるかもしれませんが、北斗さんのように抗がん剤治療の終了後は発毛しますから、ぜひ励ましてあげてください。

■再発とリンパ浮腫のケア

 ホルモン治療は、5年くらい続きます。その間は、3~6カ月ごとに視診や触診、血液検査、胸部X線、マンモグラフィーや超音波などで再発をチェック。必要に応じて、CTやMRI、骨シンチグラフィーなどを追加します。

 もう一つのポイントはリンパ浮腫です。乳がんが転移したリンパ節を切除すると、リンパ液が滞ってむくみやすくなります。手術のほか、放射線治療やリンパ節への転移の有無を調べるセンチネルリンパ節生検が原因になるケースもあり、乳がんの治療後はフォローが大切。

 北斗さんは今のところ大丈夫そうですが、多くは治療後1年以内に発症します。進行すると、リンパ節を切除した側の腕が太くなりやすく、痛みやだるさを感じたり、感染症になったりしますから、予防と早期治療が欠かせません。女性にとって、見た目の悪さを伴う症状は、気持ちがふさぐ大きな要因ですから。

 では、どうやって予防するか。腕も脚も適度に圧迫すると、むくみが解消しますから、弾性着衣を利用すると効果的ですが、ただし過度な締めつけは逆効果なので、必ず専門家のチェックを受けたものを使用すること。肥満はリンパ浮腫を助長します。メタボ予防や適度に腕を動かすのもよいでしょう。

 それでもよくならないケースには、スーパーマイクロサージャリ―と呼ばれる形成外科手術などの治療を行います。“渋滞”しているリンパ管を近くの静脈につなげてバイパスを作るのです。

 リンパ液の通り道のリンパ管は0・3ミリで、静脈は0・8ミリ。それらをつなぎ合わせる針は20分の1ミリ、糸はその半分です。ミクロの世界の手術なので、スーパーマイクロサージャリ―と呼ばれます。

 リンパ浮腫はつらい術後後遺症ですが、対処法はありますから、乗り越えることができるのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。