お酒で赤くなる? 鍛えて強くなった人に食道がんのリスク

健康のためにも無理は禁物
健康のためにも無理は禁物(C)日刊ゲンダイ

「オレも昔は飲めなかったが、鍛えて強くなった。おまえも頑張れ!」

 赤ら顔の先輩が後輩の杯に、酒をなみなみとつぎ、大声を張り上げる。忘年会シーズンではよく見かける光景だが、近い将来、見られなくなるかもしれない。医学的に「下戸が無理してお酒を飲むと食道がんのリスクがアップする」ことがハッキリしてきたからだ。酒の無理強いはパワハラどころでは済まなくなる!?

■“飲める”日本人は半分

 商社に勤める中村健太郎さん(仮名・52歳)が胸に違和感を持ったのは2年前のこと。食べ物をのみこんだときに、胸が焼けるような感覚があった。「胃の酸が食道に逆流する逆流性食道炎ではないか」と疑ったが、医師の診断は初期の食道がんだった。

 日本消化器学会専門医で、鳥居内科クリニック(東京・成城)の鳥居明院長が言う。

「食道は太さ2~3センチ、長さ25センチほどの筒状の管で、厚さ3~4ミリの壁にできる悪性腫瘍が食道がんです。飲食時に胸に違和感を感じるのは、がんが食道の壁を浸潤するからです。進行すると通過障害を起こし、突然、食べ物がのどを通らなくなり、痩せていきます」

 幸い、中村さんは早期がんで内視鏡による治療だけで済んだが、食道がんは周囲のリンパ節に転移しやすい。発見が遅れたら、命すら失ったかもしれない。

 実際、日本では年間2万人が新たに食道がんと診断され、1.2万人が死亡する。50~60代に多く、がんと診断されてから5年後にどのくらいの人が生きているかを示す5年相対生存率は、胃がん6割強、大腸がん7割前後に対して、食道がんは男性3割、女性4割と悪性度が高いのだ。

 食道がんは飲酒・喫煙がリスク要因といわれるが、中村さんはたばこを吸わない。お酒も昔はまったく飲めなかったが、鍛えて飲めるようになった。それでもビール1杯で顔が赤くなるのは変わらず、自宅で晩酌するほどの酒好きではない。

「実は中村さんのような人が食道がんになりやすいのです。もともと日本人でお酒の強い人は半分しかいません。5%はまったく飲めない下戸で、残りは努力して飲めるようになるものの、飲まない時期があると再び飲めなくなる、お酒の弱い人です」(鳥居院長)

 お酒を飲むとアルコールが肝臓で代謝され、中間代謝産物として、アセトアルデヒドができる。その後、速やかに分解されて無害な酢酸になる。このシステムが正常に働かない人は、少量のお酒で顔が赤くなったり、悪酔いしたり、二日酔いがひどくなったりするのだ。

■危険なのは「飲めるが弱い人」

「結局、お酒が飲める、飲めないはアルコール脱水素酵素とアセトアルデヒド脱水素酵素がしっかり働くか否かにかかっています。この酵素を活性化する遺伝子と活性化しないものがあり、それは両親からひとつずつ受け継ぎます。(1)2つ共に活性化するタイプなら飲める人(2)ひとつだけなら飲めるが弱い人(3)両方とも活性化しないタイプなら下戸――となるのです」

 問題は、アルコールもアセトアルデヒドも毒性があり、がんになりやすいこと。とくにアセトアルデヒドはアルコールの10倍も毒性があり、体内にとどまる時間が長いとがん化しやすい。

「その意味では、(2)の飲めるが弱い人は一番危ないタイプと言えます。自分がどのタイプかは、お酒を飲み始めの時に『顔が赤くなったか』どうかで分かります」

 では、(2)のタイプの人はどうすればいいのか? まずは、禁酒・禁煙し、緑黄色野菜を積極的に摂取することだ。

「日本人の食道がんの9割を占める食道扁平上皮がんは、前がん病変とされる異型上皮から発生されると考えられています。京大医学部の武藤学教授の研究グループが、内視鏡治療した早期食道がん患者330人を調査したところ、異型上皮の発生には飲酒、喫煙、緑黄色野菜の不足、痩せが関係することが分かったからです。とくに食道に多発性の異型上皮がある患者さんは、治療後に禁酒すると食道内の別の場所にできるがんを77%減らせることが判明しました」(鳥居院長)

 お酒はあくまで無理せず、楽しめる範囲にとどめることが大切だ。

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