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【がん患者への食事】東京医科大学病院 栄養管理科(新宿)

東京医科大学病院・栄養管理化の榎本眞理科長
東京医科大学病院・栄養管理化の榎本眞理科長(C)日刊ゲンダイ
治療の副作用に応じた食事メニューを提供

 今年の診療報酬改定から、「がん」「低栄養」「嚥下困難」に対する栄養指導が保険適用(これまで自費や無料で提供されていた)になった。特にがん治療中の食事(栄養)の重要性を、同科の榎本眞理科長(顔写真)はこう言う。

「抗がん剤を使うと、がん細胞と一緒に正常細胞も叩いてしまうので、体力がないとダメージを受けやすい。投薬治療は大体、1回3~4週間を6~8クール繰り返す。その間、食事で体力を回復させないと治療も続けられません」

 体力が落ちると、食欲も落ちる悪循環を起こすという。抗がん剤の副作用で多いのは「吐き気」「食欲不振」「下痢」「口内炎」「味覚や嗅覚の変化」など。

 副作用が少ないとされる分子標的薬でも口内炎ができやすい。放射線治療では、照射が食道に当たる治療で「嚥下痛」、子宮がんなどの治療で「下痢」が起こりやすいという。

 これらの副作用の症状に応じた食事メニューで摂取栄養量を管理するのが、栄養管理科の役割だ。

「食欲がないのに、ご家族の方が『食べないと元気が出ない』と無理に食べさせるのは、ストレスになり、逆効果です。『食べられるときに食べたいものを食べる』が基本になります。体力維持には、BMI(体格指数)が18.5~25、1カ月の体重減少率5%未満などが目安になります」

■食が細ると患者は不安になる

 がん闘病中の栄養指導は、体力維持と同時に治療効果を高めるため、重要になることもある。

 甲状腺がんでは、全摘後に残った甲状腺組織の再発を減らすため、治療用放射性ヨウ素の入ったカプセルを服用する「アブレーション」という治療を行う場合がある。その準備として、治療の2週間前からヨウ素を含む食品を制限する必要があるのだ。

 同科は放射線科(核医学)と連携して、そのアブレーション治療を受ける患者の栄養指導を徹底して行っている、全国でも数少ない施設だ。

「甲状腺がんの栄養指導はこれからの分野で、通常は海藻類などヨウ素を多く含む食品を挙げて、食べないように指導している程度です。しかし、当科はあらゆる食品を調べて、通常1日に100~300マイクログラム摂取している量を計算して、100マイクログラム以下まで減らすように指導しています」

 ここまで徹底するのは、外食やコンビニ食を中心に、多くの食品に「増粘剤」や「昆布ダシ」などの形でヨウ素成分が使われているからだという。魚も海藻をエサにするので、肉類の方がヨウ素は少ない。同科ではトンカツ、しゃぶしゃぶ、鶏空揚げなど、誰もが好きそうなメニューの調理法や調味料のレシピを教えてくれる。

「いずれにしても、がん患者さんは食が細ると不安が増して、病気に対して前向きになれません。『食欲がない』『体重が減った』『味覚が変わった』『口内炎ができた』などで、どうしたらいいか分からないときは、積極的に栄養相談を利用してもらいたいと思います」

 同科の「栄養相談」(予約制、1回30分前後)は同院の外来・入院患者に限られるが、3割負担で初回780円、2回目以降は600円で受け付けている。

■データ
◆スタッフ数=管理栄養士12人、栄養士2人、調理師5人
◆1日に作る食事数=1回約700食×3
◆月間の栄養相談数=平均280件(うち、がん患者の栄養相談は平均20件)