越川さんは自殺の方法を考えた。最初は風呂の中で手首を切ろうとしたが、息絶えるまで少し痛そうだ。
鉄道自殺はどうだろうか。ホームから電車に身を投げたら、鉄道会社から莫大な損害賠償が請求されるという。支払いは、群馬の実家でひとり暮らしをしている年老いた母になるだろう。母にはうつ病にかかっていることは内緒にしているし、死んでまで迷惑をかけたくない。
越川さんは、登山のほかに釣りも趣味にしていた。帰省する時は必ず釣り竿を携帯し、実家の周辺で川釣りを楽しんでいた。
「台風の日を狙い、夜釣りの川で自殺しようかと考えました。生命保険の受取人名義を母にしてね」
こうした自殺の方法を毎日、寝ても覚めても考えるようになった。
やがて、自殺の場所を川と決めて決行の準備に入った。しかし、その前に持ち物を少し整理しておこうと思い立ち、残高が少ない預金通帳や健康保険証、運転免許証をまとめて机の上に置いた。
ドキュメント「国民病」