天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓も冬支度を忘れるな

順天堂大学医学部の天野篤教授
順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 12月に入って一気に寒くなり、いよいよ冬本番を迎えます。この季節は、心臓疾患を抱えている方はもちろん、高血圧、高血糖、高コレステロールといった心臓の危険因子を指摘されている方は、“心臓の冬支度”をしてください。

 まず、寒くなると血圧が上昇します。体の熱を逃がさないように血管が収縮するためです。血圧が高くなると血管にも大きな圧力がかかり、傷つきやすくなります。その傷からコレステロールが入り込んでプラークを形成し、動脈硬化を促進するのです。さらに、動脈硬化が進んでいる状態で急激に血圧が上がると、心筋梗塞などの発作を起こして突然死を招くリスクが上がります。

 普段から血圧を下げる薬を飲んでいる人は、冬になったら「いま飲んでいる薬で問題がないかどうか」を見直す必要があります。

 また、寒い日の早朝は、掃き掃除や運動にも気を付けましょう。心臓発作は、早朝や起床直後に起こりやすいというデータがあります。寒い朝、起きてすぐに重い物を持ち上げたり、階段の上り下りをしたり、掃除などで体を動かすと、急激に血圧が上昇し、脈拍が増えて心臓の負荷が上がってしまうのです。

 暖かい室内から寒い屋外に出るときはしっかり厚着をする。急に体を動かしたり、力を入れて踏ん張るような行動は避けるようにしてください。

 近年、よく聞かれるようになった「ヒートショック」への対策も忘れてはいけません。ヒートショックとは、寒い屋外と暖かい室内との温度差が10度以上になるような急激な温度変化によって血圧の急激な上昇や下降が起こり、体に異変を来す状態です。

 ヒートショックを起こす顕著なケースが入浴です。寒い脱衣所で衣服を脱ぐと血圧が上昇し、浴槽で熱い湯につかるとさらに上がります。体が温まってくると今度は下降し、再び寒い脱衣所に出ると急上昇します。短時間でこれだけ急激な血圧の上下動を繰り返すわけですから、それだけ心臓に大きな負担がかかります。

 脱衣所に暖房器具を置くなどして、入浴前に脱衣所を暖かくしておく。一番風呂は避け、浴室をシャワーでしっかり暖める。湯船に入る前には手や足にかけ湯をし、一気に肩までつからない。自覚症状がないまま動脈硬化が進んでいる人はたくさんいます。自分は大丈夫だと甘く考えていてはいけません。

 年末の大掃除にも危険は潜んでいます。部屋、廊下、トイレ、浴室などの掃除だけでなく、洗濯や炊事、洗車にも注意してください。

 まず、拭き掃除や炊事、洗車などで冷たい水に触れるだけでも、心臓には負担がかかります。さらに、水を入れた重いバケツを持って移動したり、濡れて重くなった洗濯物を洗濯かごで運んだりすることでも、血圧は急激に上昇します。

 中でも、床の拭き掃除をする際などにとりがちな「前かがみにしゃがみこむ姿勢」は危険です。前かがみの姿勢は心臓が圧迫されるうえ、呼吸もしづらくなって血圧の変化が強く表れます。「心臓病の患者がいちばんやってはいけない姿勢」といわれているほどです。

 すでに心臓疾患を指摘されている方は、無理に大掃除はしない方がいいかもしれません。

 また、冬は脱水にも気を付けなければいけません。エアコン、ストーブ、ホットカーペット、コタツといった暖房器具を長時間つけっ放しにしていることも多く、考えている以上に部屋や体は乾燥しています。また、利尿作用があるお酒を飲む機会も増えるため、脱水状態になりやすいのです。

 心臓は脱水にめっぽう弱い臓器です。脱水状態になると、血液の粘度が上がって流れにくくなります。全身に血液を送り出す心臓はそれだけ大きな力が必要になり、負担が増大します。喉の渇きを感じなくても、こまめに水分摂取をしてください。

 寒さだけではなく、暴飲暴食や夜更かしする機会が増えるなど、冬は心臓に負担がかかるような状況が多い季節でもあります。

 平穏な年始を迎えるためにも、心臓の冬支度はしっかりしておきましょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。