いつも霧がかかっているような重い頭の中に、その声がまるで霧を裂くようにスーッと入ってきたという。
面会の約束をした翌週の月曜日、越川さんは10年ぶりに白いワイシャツを着てネクタイを締めた。小脇に新聞を抱え、軽い足取りで駅に向かった。
「うつ病は99%治ったと自覚しています。残りの1%ですか? 再発の不安でしょうか」
こう語る越川さんは、なぜ自分がうつ病にかかったのか、10余年前をあらためて回想してみた。
「思い当たるのは、20年近く吸っていたたばこをやめたことです。やめたときのイライラ感で、眠れなくなってしまった。これが不眠症に導く動機になったかなと。また、当時は父親の死、仕事や結婚などいろいろな問題が重なり、精神的に追い込まれていたことがうつ病につながったのではないでしょうか」
来年、人材派遣会社の顧問を辞めるという越川さんは、「10年間をロスし、残された人生の『時間』を取るか、『金』を取るかを考えました。貧乏でもいいから、私は好きな趣味を堪能して生きたいと『時間』を選択したのです」と笑った。
ドキュメント「国民病」