ベッカムが骨折して使用 歯の「超音波治療」で骨を増やす

歯周病やインプラント治療で力を発揮
歯周病やインプラント治療で力を発揮(八重洲歯科クリニック提供)

 大リーグ時代の松井秀喜やマンチェスター・ユナイテッド時代のデビッド・ベッカムが試した骨折が早く治る治療法をご存じだろうか? 「超音波骨折治療法」がそれで、従来の治療に比べて4割早く治ることが知られている。実はこの治療法が歯周病やインプラントの治療に応用され、大きな成果を挙げているという。自由診療歯科医で「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に聞いた。

 遠藤孝子さん(仮名、48歳)は右下の第2小臼歯、第1大臼歯、第2大臼歯の3本の歯がない。妊娠中に歯周病を患い、失ったからだ。その後、インプラントを希望したが、どの歯科医師も「歯を支える顎の歯槽骨の量が足りないのでインプラントは無理」と言う。エックス線やCT画像を見ると顎の骨が少なく、しかも真っ白に写っていた。

「骨は、その表面を覆う硬くて緻密な皮質骨と細い骨が蜂の巣のような構造をした海綿骨でできています。健康な骨は目に見えないほど細い血管が通っていて、エックス線やCTで見ると黒っぽく写ります。ところが、たばこを吸い続けたり歯周病などがあると血流が悪くなったり、骨の破壊と再生のバランスが崩れる骨硬化症と呼ばれる病気になり、白っぽく写ります。こういう人は痩せた顎の骨を新たに作るのが難しいのです」

 遠藤さんはまさにこのタイプ。インプラントをあきらめて、入れ歯の検討をし始めた矢先に出合ったのが歯の超音波治療だった。

「骨は電気を流すと代謝が活発になることが以前から知られていました。しかし、骨に電気を流す方法がなかったため、治療法としては使えませんでした。ところが、超音波を骨に照射することで骨に電気が流れて、骨の代謝が進むことが分かったのです」

■歯周病やインプラント治療で力を発揮

 遠藤さんの場合、1回当たり15~20分間の超音波治療を12回受けることで、歯槽骨の骨硬化症が、3カ月後にインプラント治療ができるまでに改善した。その後、予定通りインプラントを入れ、10年経過した今も元気に煎餅をバリバリ食べているという。

「超音波治療は歯科インプラント周囲骨の治癒促進に有効です。例えば、歯を抜けたままにしていると顎の骨が痩せていき、インプラントを埋められなくなります。それでもインプラント治療をするには、痩せた骨を増やす治療が必要です。人工骨や自家骨移植などで新しい骨を作るのですが、超音波を当てると、数倍早く新しい骨になるという報告があります」

 実際、朝日大学歯学部口腔機能修復学講座の梶本忠保氏の「インプラントの治療における超音波治療の有用性」という論文では、発振周波数が1.0メガヘルツでは約1.7倍、3.0メガヘルツでは約3.7倍の新生骨組織形成量が観察されたという。

 また、インプラント治療では埋入した人工歯根が骨としっかり結合する必要がある。そのときも、超音波治療は大きな役割を果たす。歯の超音波治療機の製造・販売会社の元社員である小坂啓氏が言う。

「動物実験では、超音波治療を施した群は、そうでない群に比べて、人工歯根と骨との接触面積や引き抜き試験での強さが2~3倍上回ることが分かりました。超音波治療を併用すれば、歯周病やインプラント治療の成功率は格段に上がるのです。ところが、多くの歯科医師はそのことを知らない。残念です。私の身内がインプラントするなら、必ず超音波治療を受けさせると思います」

 この治療法は公的保険が利かない。木村院長の歯科クリニックでは1回5000円だというが、費用は医院によって違う。関心がある人は自由診療の歯科医に尋ねてみることだ。

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