ドキュメント「国民病」

【うつ病】医療や福祉で行き届かない部分は「自助会」で

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 毎月1回、東京・四谷の「四谷ひろばコミュニティ」で、「東京うつ病友の会」の定例会(午後2時~)が開かれている。4年前、「うつ病」という共通した疾患者たちが連絡を取り合い、自助グループとして発足した。

 定例会の参加者は予約の必要がなく、氏名や住所、職業も名乗らない。会場でお互いに呼び合うときはニックネームである。会場の入り口で、参加費300円を支払い、用意されているテーブルに座る。

 会の世話人たちはすべてボランティアで、医療や福祉では行き届かない部分を自助会が担おうという志を持つ。その一人である「なお」さん(男性、40代)は言う。

「私自身、双極性障害者(躁とうつの両方を持つ気分障害)で、自殺未遂にまで追い込まれた経験があります。うつ病という同じ体験を持つ人たちとの出会いによって、“自分一人だけじゃないんだ”という気持ちになりました。それで情報を共有し、不安や孤独から解放されたいという目的で会を起こしたのです」

 スタート時の参加者数は10人。その後、6人、4人まで減ることもあった。だが、発足2年目あたりから20人となり、現在は平均40人前後で推移している。参加者は男性が7割(平均年齢は30~40代)だという。

 世話人の「ゆま」さん(女性、30代)は会の目的をこう語る。

「うつ病の症状というのは個人差があり、またそれぞれが感じる主観的、感覚的なもので、周囲に伝えるのが難しい部分があります。周囲の人になかなか理解してもらえない悩みや苦しみを、同じ目線で語り合い、体験や知恵を共有し、当事者が人らしく生きていけるようになるのが会の願いです」

■参加1年後に再就職できた人も

 常連参加者の一人であるSさん(男性、30代)が、「東京うつ病友の会」の定例会に顔を出したのは1年前だった。初回は、奥さんに腕を引かれて出席した。

 長年、仕事を放棄し、無気力状態で絶望のふちをさまよっている間、生活は病院関係の仕事をしている奥さんの収入が支えてくれたという。

 やがて、休むことなく会に参加するにつれて、Sさんには何でも話し合える仲間が増える。マイナス思考の気分が少しずつ和らいだ。

「うつ病患者を理解し、温かく見守ってくれる家族の存在は大きい。その点、私は助かりました。会に1年参加し、再就職することもできて、仕事への意欲が生まれたことが何よりでした」

 定例会の参加者は、毎月通ってくる人、初めての人、家族を連れてくる人(家族は同伴のみ許可)とさまざまである。

「参加者の中に、先月よりも顔色が明らかにいいなと思う人がいます。こんなとき、友の会を立ち上げてよかったなと思いますね」(なおさん)