独白 愉快な“病人”たち

「先生とは好相性でした」 山田邦子さん乳がん闘病を語る

デビューからすでに35年
デビューからすでに35年(C)日刊ゲンダイ

 病気がわかったきっかけは、出演したテレビの健康番組です。番組でやった「自分で乳がんを見つける方法」を試しに家でやってみたらコリッとしたものがあったので、番組でお世話になった女医先生のところで診察を受けたわけです。

 乳がんと言われた時のことをよく聞かれるけれど、思っていたほどショックじゃなかった。先生が間髪入れずに次のストーリーを話してくれたからだと思います。そりゃ一瞬ドキッとはしましたよ。でも、先生が「これは早期で小さくて、できたところもよかったから、こうでああで、すごく簡単で、あなた本当にテレビに出てよかったわね」って(笑い)。サバサバしたとてもいい先生で、中途半端なことを言われるのが嫌いな私と相性がよかったの。

 私はいつも「最悪のことと、最高のことを教えてください」ってお願いして、治療の話を進めていきました。最悪はがんが広がって死ぬこと。最高は治療が成功してどんどん健康になること。だいたいその2つしかないですよね。それで、「最高の結果にするために、今、私ができることは何ですか」と聞いたら、先生は「元気でいることです」と言うんです。“そうか”と思って力が抜けました。自分は元気でいればいい、治療のことは素人が考えることではなくて先生方にお任せしようと。

 1カ月半ほど検査に時間をかけて見つかった腫瘍は、右乳房に2つ、左に1つ。主治医が絵を描きながら説明してくれたのは、両胸の部分摘出手術のプランでした。その時、右乳房上の腫瘍は浸潤がん(転移の可能性が高い)なので切るのは仕方ないとしても、左の腫瘍は非浸潤がんだったので切らなくてもいいのでは? と思い、素直に質問してみました。すると、主治医は「これは勘ですけど、40%の確率でがんになると思います」と言うんです。“こんなに科学が発達しているのに勘って何よ”と思いません? 実は切らなくてもいい程度なのではないかと疑って、来る先生、来る先生にカマをかけてみましたが、どの先生も同じように同じことを言うので、最終的には納得しましたけどね(笑い)。

■人とつながることで元気に

 手術の時の麻酔では「ゆっくり数を数えてください」って言われたので、「いーち」と数えたら、次の瞬間「終わりましたよ」と言うんです。すごいでしょ? しかも、麻酔中に見ていた夢の中で、お寿司屋さんのカウンターに座って今まさに食べるっていうタイミングで声をかけられて、マスクをした主治医の顔が板さんだと思ったくらい。開口一番、「今、食べるところだったのに」と言っちゃいました(笑い)。

 でも、酸素マスクを外した途端、「痛ああああ!」と叫ぶほど胸に痛みを感じたんです。すると、かわいい看護師さんが私の顔をのぞき込んで「今、座薬入れましたから」とニッコリ。思わず「誰が!?」と叫んでしまって、手術室で爆笑されました。座薬を入れられたことにまったく気づかなかったんですよね。もう何も威張れないなと思いました(笑い)。

 つらかったのは、退院後、1カ月ほど通院して受けた放射線治療が終わり、ホルモン治療に切り替わったころです。毎日1錠の薬を飲むだけなので、病院に行くのは半年に1回だけ。普通なら、よかったと思うところですけど、病院から離れることが寂しくてね。さらに5年後、半年に1回の通院も終わってしまったら本当に寂しくなっちゃって、用もないのに病院の近くをうろついたりしてました。「荷下ろし症候群」というそうで、あとから先生に「頑張った人がみんななるのよ」と言われました。

 私、それまでずっとひとりでやってきたんですよね。グループとか群れるのが嫌いで、それが自負でもありました。でも、そんなの思い上がりだったんだと気づきました。それからは、人とつながることで元気になったようなものです。

 例えば、放射線治療が始まったとき、乳がんになってからお友達になった方に「毎日タクシーじゃ飽きるから」とSuica(プリペイド型電子マネー)をいただいたの。「これで電車にもバスにも乗れるのよ」って(笑い)。恥ずかしい話ですけど、それまで自分では切符一枚買えなかった。そのSuicaがいろんなことを変えてくれましたね。最近は、がん撲滅を目指す芸能人のチャリティー組織「スター混声合唱団」の団長として、みんなの切符の手配から事務処理全般をひとりでやってます。

 がんになると孤独感がすごいんです。「なんで自分だけ……」って。でも、みんなそう思うんです。みんな同じだとわかって、私はだんだん元気になれました。

▽やまだ・くにこ 1960年、東京都生まれ。81年芸能界デビュー。お笑い番組をはじめ、司会、ドラマ、舞台、講演、執筆など幅広く活躍。08年から、がん撲滅を目指す芸能人チャリティー組織「スター混声合唱団」を結成し、団長を務める。現在、NHKラジオ「日曜バラエティー」、スポーツ報知「山田邦子 釣りウキウキ」などで活躍中。