橋本テツヤの快適老齢術

運転士のように 「指さし&声出し」確認を習慣づける

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 60兆個あるといわれている人間の細胞には、約1000億個の脳細胞がある。その中に情報の伝達と情報処理を担う「ニューロン」という神経細胞が100億から140億あるという。

 だが、この細胞は40歳を過ぎると10年で5%ずつ減るという。減るとどうなるか。物忘れが多くなってくるのだ。ガスの元栓の閉め忘れ。玄関の鍵のかけ忘れ。人の名前を忘れる……。これは加齢による記憶力や判断力、適応力の衰えからくるものだ。

 先日、知人男性と立ち寄ったワインバーで財布が入ったショルダーバッグを忘れてきた。知人の話が面白かったのと、隣のテーブルに居合わせた客の美女2人と楽しく会話したことでバッグの存在が希薄になったのだ。人は何かに気を取られると忘れ物をする。バッグは戻ったが気を付けなければと自戒した。

 こうした忘れ物を防ぐには「指さし確認」と「声出し確認」が一番良いのだが、この日はそれを怠っていた。僕は普段からドアの鍵を閉めたら「鍵閉めた。よし」と声を出して指さしている。これが頭を回転させる。部屋を出てから「あれ? 鍵をかけたかなぁ」と思うのは脳に自分の行動をしっかり記憶させていないからだ。

 人は多くの感覚器官を使って行動すると、意識が覚醒して集中力や注意力、記憶力が高まる。声を出して指さすことで前頭葉の「前頭前野」が刺激されて思考力が活性化する。さらに指を動かすことによって脳の老化も防げる。家庭でも声を出して指をさす習慣をつけるといい。

 電車の運転士や車掌、駅員が対象物に指をさして安全を確認する光景を見ることがある。鉄道用語の「指差喚呼」というものだ。冬場の高齢者の入浴事故が急増している。脱衣所と浴室の温度差で血圧が大きく変動して湯船の中で倒れ、家族に気付かれずに溺死したというケースがある。入浴する前に風呂場を指さして大声で「風呂入ります」と家族に知らせておけば何かあったら助けてくれるだろう。机に携帯を置いたら携帯を指さして「携帯置いた」と声に出しておけば忘れない。日常的に指さし確認する行動は日々の生活の中でも役に立つ。

 今日は二十四節気のひとつの冬至。日頃セックスレスになっている妻に「今夜は柚子湯を用意しましたぁ」と元気な声で指差喚呼すれば、夫の明るい声と柚子の優しい香りに誘われて一緒に入浴するかもしれない。熟年離婚が増えているが、何歳になっても妻へのサービスは夫婦円満の秘訣でもある。

橋本テツヤ

橋本テツヤ

ジャーナリスト、コラムニスト、メンタルケア心理士、肥満予防健康管理士。著書多数。近著に「昭和ヒット曲全147曲の真実」(KADOKAWA)がある。全国各地で講演活動も精力的に展開中。