年末年始はお酒を飲む機会が増える季節です。心臓疾患や生活習慣病を抱えている人はもちろん、そうでない人もアルコールが心臓にどんな影響を与えるかについて覚えておきましょう。
一般的に、アルコールを摂取すると一時的に血圧が下がり、脈拍が増えます。アルコールが体内で分解されるときに作られるアセトアルデヒドという物質が増えて、血管を広げるためです。血圧が下がると、血圧を元に戻そうとして心臓は血液をたくさん送り出します。お酒があまり強くない人が飲むと、心臓がバクバクするのはそのためです。
一方で、長期間の飲酒は血圧を上昇させることもわかっています。血管の収縮反応が高まったり交感神経が活発になって心臓の拍動を速めることなどが理由として考えられています。
また、アルコールには強い利尿作用があり、脱水症状を引き起こします。脱水状態になると、血液の粘度が上がって流れにくくなり、全身に血液を送り出す心臓はそれだけ負担が増大します。
カナダ医師会雑誌に掲載された論文では、心臓病や糖尿病を持っている人のうち、アルコール摂取が少量の人に比べると、中等量や大量の人は心房細動の発症頻度が増加すると報告されています。
アルコールそのものは、大量に摂取し続けなければ心臓にそれほど悪影響は与えません。アルコールを摂取したことによって、心臓の動きを活発にさせたり、血圧を上昇させたり、脱水を引き起こしたりする作用が心臓に大きな負担をかけるといえるでしょう。
心臓の手術をした患者さんには、退院する際に必ず「お酒を飲みすぎないように」という指導をします。お酒を飲む場合、日本酒や焼酎は最大で1合(180ミリリットル)、ビールなら中瓶1本(500ミリリットル)、ワインはグラス1杯(120ミリリットル)、ウイスキーはダブルで60ミリリットルまでが目安となる適量です。お酒が好きな人にとっては厳しく思えるかもしれませんが、心臓の状態を急激に悪化させないためには、制限が必要なのです。
お酒を大量に飲んでいると、アルコール性心筋症を発症する場合もあります。アルコールの過剰摂取によって、心臓の細胞間質にアミロイドというタンパク質が沈着し、抗体反応が出るなどして心筋が弱ってしまう病気です。動悸、息切れ、胸痛、むくみ、不整脈などの症状が表れ、病状が進行すると心臓のポンプ機能が衰えて心不全を起こしたり、死に至るケースもあります。早期発見なら断酒すれば改善しますが、重症化すると心機能は元に戻せません。
一般的に、1日80~90グラムの純エタノール換算量を5年以上にわたって摂取すると発症するといわれていて、日本酒なら5合、ビールなら大瓶4~5本を10年以上毎日飲み続けるとそれに該当します。お酒の飲み過ぎは禁物なのです。
一方で、アルコールは心臓にプラスの影響を与えるという報告もあります。飲酒と心筋梗塞の発症率の関係を分析した米ハーバード大の研究では、「お酒をまったく飲まない」か「週に1回未満飲む人」に比べ、「週に3日以上飲む習慣がある人」の発症率が最も低いという結果でした。アルコールには、HDL(善玉)コレステロールを増やしたり、血液の固まりやすさを抑える作用もあるので、心臓疾患に予防的に働く側面もあるのです。
とはいえ、別の報告では、大量にお酒を飲む人は、まったく飲まない人よりも全体の死亡率が高いことがわかっています。やはり、前述したような適量を守ることが大切だということです。
年末年始は、飲みすぎないように意識しながら楽しくお酒を飲むようにしてください。
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