あの話題の治療法 どうなった?

「高気圧酸素療法」はなぜいまだに評価されないのか

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 今回紹介する「高気圧酸素療法(HBO)」は戦前からある歴史的な治療法で、44年前の1972年に公的医療保険の適用を受けている。

 近年、欧米では潜函病や遅発性放射線障害などに対しても臨床的評価が高まっているといわれるが、わが国では残念ながら実力通りの評価を得ているとは言い難い。

 今月初旬、日本医科大学(東京都文京区)で「第51回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会」(宮本正章会長=日本医科大学付属病院循環器内科教授・高気圧酸素治療室室長)が開催された。

 2日間に及ぶ学術総会で、「糖尿病性足潰瘍・壊疽に対するHBO」「急性一酸化炭素中毒に対するHBO」「ダイビングに対する安全な実施」「救急疾患に対するHBO」など多岐に及ぶ研究・症例発表が行われた。

「高気圧酸素療法」とは、水面から28メートルの海に潜っているのと同じ気圧まで上げた高気圧環境(潜水艦のような装置)下で患者にマスクから酸素を吸入させ、血液や組織間液中に多くの酸素を溶かし、体内の酸素濃度を著しく上げる治療法。

 急性一酸化炭素中毒、末梢動脈疾患、腸閉塞症、突発性難聴、糖尿病性足潰瘍・壊疽、捻挫や打撲などスポーツ外傷などにも有効な治療法である。

 東京都下では一度に数人入ることが出来る「第2種高気圧酸素治療装置」を日本医科大学付属病院、東京医科歯科大学付属病院など5カ所の病院で稼働しているが、問題は価格。1台2億円近くもする。

「先の総会でも、学会主導で診療報酬改定に向けて厚生労働省をはじめ関係機関へのヒアリングを実施していることを述べました。この装置を安全・有効に運用するために学会は専門医制度、認定施設制度を設け、1人以上の専門医、1人以上の専門技師(臨床工学技士)を同時に従事させなければ認定施設とはなりません。それなのに、診療報酬があまりに低すぎるのです」(宮本教授)

■アスリートや声楽家にも人気に

 実際、2時間近い救急患者の治療では、診療報酬は1回7万円(発症後7日以内)。非救急患者(救急疾患でも7日間を超えた患者)は同2000円だ。そのうち2~3割が患者の自己負担金となる。

 これでは財力が乏しい地方の病院などは、たとえ関心を示しても手が出ない。現在保有している施設でも、どんどん治療中止に追い込まれている。

 同療法は近年、悪性腫瘍に対する放射線治療後の遅発性放射線障害や感染症治療にも効果を発揮し、実施されている。

「もっと広まってほしいと思います。近年、世界アンチ・ドーピング機構がドーピングには含めないと宣言したこともあり、同療法を受ける私の患者さんの中には、一流アスリートもおり、徐々にスポーツ界にも拡大、増加しています。また喉を使い過ぎる声楽家や歌手の方々の声帯浮腫などの治療にも良いとおいでになっています」(宮本教授)

 こうした保険対象外の疾患の治療は自由診療となり、1回2万1000円の診療代金になるという。