検査で異常なし…そのシビレは多発性硬化症かもしれない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 患者数が少ない病気であっても、自分と無縁とは限らない。もし、妻や娘がしびれなどを訴えたら、疑う病気のひとつに「多発性硬化症」がある。

 43歳の女性は指先のしびれ、痛み、両下肢のつっぱりがあり、「首から下の感覚が鈍い」「歩行もなんとなくおかしい」と感じていた。整形外科や脳神経外科を受診すると、いずれの科でも「なんともない」と言われた。

 38歳の女性は左の視力が低下し、眼科で視神経炎と診断された。しかしその半年後、今度は右視力が低下し、6年後には右手足のしびれが出てきたが、脳神経外科では検査の結果、「正常」と告げられた。

 35歳の男性は両手指先と腹部にしびれがあり、整形外科を受診。検査の結果、診断は「異常なし」だった。

 これらの人は、いずれも後に、多発性硬化症が判明した。

■神経内科の受診が必須

 診断を行った「さっぽろ神経内科病院」の深澤俊行院長は、「神経内科医でなければ診断が非常に難しいのが多発性硬化症。また、実は神経内科医であっても、古い知識しか持っていない医者では見落としがある」と指摘する。

 多発性硬化症は、中枢神経を自己免疫が攻撃して、中枢神経を構成する大脳、小脳、脳幹、視神経、脊髄の働きに異常が起こる疾患だ。根本的な原因は不明。男女比は1対3で女性に多く、ほとんどが20~30代の若い時に発症する。

 一般的に、症状が出てもいったんは“治る”。最初は大した症状ではなく、ちょっとした違和感程度のこともある。しかし、その後再発し、そして再発を繰り返し、進行していく。末期になると認知機能障害や歩行障害が出てくる。

 多発性硬化症の診断が難しいのは、症状が多岐にわたるからだ。

「自己免疫が攻撃して起こるのを『脱髄斑』と呼びますが、これが中枢神経のどこに起こるかで、症状は異なります。さらに、脱髄斑は複数起こるので、症状はいくつも出てくるのです」

 典型例を挙げると、しびれ、麻痺、記憶力低下、理解力低下、健忘、視力低下、視野障害、物が複数に見える複視、歩行障害など。

 これらの症状が出てきた時、たいていの人は、神経内科よりも整形外科、脳神経外科、眼科などを「関連した科」と考えるだろう。

■早期発見、早期治療を

 しかも、多発性硬化症は、早期では検査や診察で捉えられない場合が珍しくない。また、MRIで確認できる場合でも、その検査に至っていなかったり、症状が消えるために「治った」と医者も患者も思ってしまうこともよくある。結果、冒頭のように「なんともない」「正常」「異常なし」となる。

 しかし、多発性硬化症は早期に適切な治療を開始できるかどうかで、「その後」が大きく変わる。

「かつては急性期治療(症状を抑える)しかなく、再発を防ぎ、進行を食い止める治療はありませんでした。しかし今は、早期で診断がつけば、再発を防ぐ治療法があるのです」

 多発性硬化症は障害度に応じて段階が分かれ、1年ほどで一気に進行する人もいれば、徐々に悪くなっていく人もいる。いずれにしろ、「見た目が元気」程度の早期で治療を開始しなければ、その後、治療を受けても、効果を得られない。

「認知機能が低下したり、歩行ができなくなっている患者さんの中には、『なぜあの段階で多発性硬化症の診断を受けられなかったのか、治療を開始できなかったのか』『治療できていれば認知機能を維持できたかもしれない』などと思う方が少なくありません」

 そうならないために、知識として押さえておくべきが、多発性硬化症なのだ。

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