当事者たちが明かす「医療のウラ側」

「治療法を任せる」と言われたら医師は喜ぶべき

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
首都圏の40代開業医

 最近、私の患者さんでがんが見つかった方がいます。むろん、私の方で「がんの疑い」ということで大病院を紹介し、そこでがんと確定診断された方です。その方が大病院の医師に病状と治療法について説明され、「どうしますか?」と聞かれたそうです。

 がんについて何も分からない患者さんは「(病院に)お任せします」と言ったところ、医師から「任されても困ります。あなたの問題ですから、自分で決めて下さい」とたしなめられたそうです。

 最近はこういう医師が多いようですが、私には理解できません。がん患者に「任せます」と言われたら医師冥利に尽きるというものです。そもそも患者にその後の治療法を決めさせるのは無理です。医学的無知であることも理由ですが、知識があっても決められるはずがありません。

 以前、世界的な食道がんの権威で世界最高峰の医学雑誌の編集長を務めた医師が食道がんになりました。医師は自分が研究している病気になるというジンクスがあります。この医師もそれにあてはまったわけです。

 手術を終えたこの高名な医師はその後治療について迷われたそうです。周りの人は食道がんの権威であり、優れた研究者兼医師です。奥さんも子供も医師ですから、さまざまな最新治療法をアドバイスしてくれるのですが、「そんなことオレは知っているよ」ということになる。

 データは知っていても、それはすべて他人の情報であり、自分がどうしたらいいか、分からなかったのです。

 結局どうしたのかというと、友人の「君に必要なのはドクターだ」というアドバイスに従い、治療は自分の信頼できる医師に任せて職場に復帰されたそうです。

 ここで言うドクターとは信頼でき、自らのこれまでの経験や勉強の結果を患者の前にすべて提示し、一生懸命治療に取り組んでくれる医師のことを言います。この高名な医師は、その後次のようなことを書きました。

「あなたの人生だから、自分で選んでくれというだけの医師は過誤を犯しているのではないにしろ、自分の義務を矮小化している。医師は自分で責任を負わねばならず、患者に負わせてはならない」

 少なくとも医師が「先生」と呼ばれる以上、それが当然だと思うのです。